先日
高橋克彦著「新聞錦絵の世界」
という本を読みまして
私は多大なる衝撃を受けてしまいました。
───ということで
今回はその
新聞錦絵についてご紹介をいたします。
新聞錦絵というのは浮世絵の一種なのですが
どういう物かというと
明治5年
日本で初めての新聞「東京日日新聞」が発行され
これが世間に広がるにつれ
「新聞」というものが
何か
最先端のカッコ良いメディア
といったイメージで評判になる中
それまで浮世絵を売っていた版元が
その流行に便乗して売り出したものです。
絵の上部には
こんな感じで、掲載新聞名を掲げた
天使がヒラヒラ~……と飛んでいます。
見出しには「東京日日新聞」と掲げてありますが
別に「東京日日新聞」が発行しているというわけではなく
(でも微妙〜に繋がりはあるらしい)
その新聞の記事を題材として描かれた
今で言えば
写真週刊誌のようなゴシップ紙です。
これは当時の庶民たちに
大変にウケたそうです。
面白そうな記事であれば
古いネタだって平気でジャンジャン取り上げるし
人々の興味を掻き立てるべく
捏造も歪曲もやりたい放題!
そしてまた
ここに描かれている絵が
まるで芝居の一場面のようで
面白いんですよ!
絵師は、歌川国芳門下の兄弟弟子
落合芳幾(よしいく)と
月岡(大蘇)芳年(よしとし)
が中心となって
気分ノリノリ ♪
血糊もべったり
───という感じ。
ちなみに芳幾&芳年のこのコンビ
慶応3年に共作で
「英名二十八衆句」
という
歌舞伎の残酷シーンばかりを集めた
恐ろしく血なまぐさい作品集を出しているのですが
これは閲覧注意
グロ注意です!!
新聞錦絵という舞台でも、彼らは
「離縁された婿、妻を串刺す」
「生首無残、狂気の衝動殺人」
などといった
猟奇的な題材の絵を
芝居かがった演出入りで
生き生きと描いています。
……とまあ
エゲツないと言ってしまえば
非常にエゲツない
ものなのですが
天使と
この本文絵のギャップが激し過ぎて
なんだか可笑しみが湧いてくるんですよね。
しかも天使が
なぜか
親爺顔!
───ここで
描かれている記事の内容を一つ
ご紹介しておきましょう。
タイトルは
「鬼より怖い金の欲」
たいそうドケチな老夫婦がいたそうです。
普段からチマチマと
爪に火をともすような倹約生活を送り
五百円という大金を残して
ついにお爺さんが亡くなりました。
お爺さんは遺言で
「死んだら金は棺に入れてくれ」
と言っていたらしいのですが
親戚の者が、お婆さんを説得して
空の財布を棺に入れて葬りました。
その後、初七日の法要の日に
お婆さんは、親類から牡丹餅を一重もらいました。
けれどもお婆さんは、忙しさのあまり
それを食べる暇がありませんでした。
そんなお婆さんが
「もう夜だし、そろそろ寝ようかねえ」
と思うころ───
いきなり鬼が二人、この家にやってきて
(おいおいおい)
「金を出せ!!」
怯えたお婆さんが、土蔵にお金を取りに行っている間
二人の鬼は
例の牡丹餅をつまんで食べ ───
その途端に
たちまち苦しみはじめ……
目から口から鼻から
血を吹き出して
ついには
死んでしまいました……。
そこでお婆さんが
死んだ鬼の顔を良く良く見てみたところ
なんと
親戚のアイツとコイツ!!
さらに昼間
牡丹餅をくれた別の親戚も
密かに
お婆さんを毒殺して
金を奪い取ろうという企みだったという…………
─── とまあ、こんな感じの
ちょっとファンタジックな殺伐記事と
血反吐を吐いている鬼の絵の上で
オッサン顔の天使が二人
ひらひら~……
さて
一時は隆盛を誇った新聞錦絵ですが
流行は短く
明治8、9年を最盛期として
衰退してしまったそうです。
きっかけは
「平仮名絵入り新聞」の登場。
新聞錦絵がやっているような後追い記事ではなく
速報性もあり、文字の読めない人にもやさしく工夫されていたため
読者はみんな
そっちに行っちゃったんだそうです……。
開化期の日本に毒々しく咲いた時代の徒花
新聞錦絵は
こうして世の中から
消えていったのでありました……
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