今回は、私の好きな作家
尾崎紅葉について語らせていただきます。
尾崎紅葉と言えば
かの有名な明治時代の大ベストセラー小説
「金色夜叉」の作者であり
文豪・泉鏡花が終生崇拝し続けていた
お師匠様でもある人です。
幸田露伴と並んで
「紅露時代」と呼ばれる
文学史上の一時代を築き
大勢の弟子を抱えていた大先生
そんなプロフィールからは意外に思えてしまうほど
非常に若い時期から活躍しはじめ
まだ青年期と言ってもいい
35歳という若さで亡くなってしまった
日本近代文学史の黎明期に輝く
彗星のような存在です。
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尾崎紅葉年譜
1868年 慶応3年
本名 徳太郎。
父の惣蔵(谷斎と号した)は角彫りの名人だったが、やや奇人っぽい所があり
幇間(宴席の盛り上げ役)として色町に出没していた。
いつも緋縮緬の羽織を着ていたので
「赤羽織の谷斎」と綽名されていた。
紅葉はこんな父を持っていることを恥ずかしく思っていたようで
周囲には秘密にしていたらしい。
東京大学予備門入学
1885年 明治18年 17才
幼馴染の山田美妙らと共に「硯友社」(日本最初の文学結社)を結成
機関誌「我楽多文庫」創刊
1889年 明治22年 21才
「二人比丘尼色懺悔」刊行
(すごい題名だが、特にエロっちい内容ではない)
1890年 明治23年 24才
「伽羅枕」を読売新聞に連載。
大学を中退して文学に専念する
1891年 明治24年 25才
「二人比丘尼色懺悔」に感動した泉鏡花(18歳)が弟子として入門(内弟子第一号)
続々と弟子が増えていく
幸田露伴と並んで二十代にして文壇の大物となり
「紅露時代」などと呼ばれていく。
1897年 明治30年 29才
「金色夜叉」を読売新聞に連載開始
1899年 明治32年 31才
胃を病み始める
「金色夜叉」は空前の大ヒットとなり
その後
「続金色夜叉」
「続々金色夜叉」
「新続金色夜叉」
と書き継がれていくのだが ───
10月30日胃癌のため永眠……
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紅葉の小説の特徴は
何といっても
分厚い心理描写
そして
微細にわたる心理分析
なんじゃないかと私は思います。
ここまで心理面を詳しく書き込んでいる小説は
古典はもちろん
現代の小説でも
私は今まで他に読んだことがありません。
彼の代表作「金色夜叉」の中でも
主人公の貫一が婚約者・宮の愛情に疑問を感じ始めた場面では
彼の独白という形で
3ページくらい費やしながら
その心中を詳しく説明してるんですよ。
紅葉の小説は
主人公はもちろんの事
わき役に至るまで
その心理が大変丁寧に描かれているため
ほとんど全ての登場人物が
何を考えているのか
丸っとわかる!!
だから
すごく感情移入しやすいんです。
難しい漢字や言葉が使われているにもかかわらず
明治時代の一般大衆がスラスラ読むことが出来
しかも 熱狂的に支持された
面白さのキモというのは
案外、この辺にあるのかもな~、と私は思っています。
(登場人物が何を考えているのか良くわからない小説には、感情移入できないですからねえ)
彼は女性を主人公に据えた小説を得意としていたため
「女物語の紅葉」
などと言われていますが
明治時代の男性が描く女性像というイメージからすると、意外なくらいに
紅葉の描く女性達は
ちゃっかりした、したたか者が多いんですよ。
「金色夜叉」の宮さんにしても
熱海の砂浜で貫一君に足蹴にされている銅像なんかを見ますと
なんだか可哀そうに見えてしまうから
「いくらなんでも、女の子を蹴るなんてヒドイんじゃない!?」
なんて
貫一君を責める人も出てきそうなんですが
実は彼女……
貫一君という婚約者がありながら
「私のこの美貌をもってすれば
もっとすんごい玉の輿が掴めるんじゃない?」
なんてことを考え
自らの意思で
お金持ちの富山さんに乗り換たんですよ!!
(親に無理やり仕組まれたとか、そういうわけじゃないんです!!)
でも
このふてぶてしさ
私は結構好きだったりします。(^_^)
紅葉の小説はそれ以外にも
「新色懺悔」
(宇治の茶摘み娘が美貌を武器に大金持ちの老人と結婚する話)
「伽羅枕」
(京都生まれの佐太夫という遊女が、美貌と客あしらいの手腕を尽くし、江戸吉原で羽振りをきかす話)
「三人妻」
(大富豪が、芸者、キャバクラ嬢、素人娘という三人の美女達を、恋の駆け引きの果て、妾に迎える話)
などなど
自分の美貌を武器として
ふてぶてしくのしあがっていく
女性達の物語が多いです。
紅葉先生
大人しく従順な女性より
そういう女性の方に面白みを感じていたのかも知れませんね。
それにしても……
二十代の若者が、どうしてここまで女性達の心理を詳しく描けるんでしょうね。
「伽羅枕」なんて24歳ですよ?(^^;)
(しかも恋の手練手管に長けたプロの女性の心理などを、こと細かに書けるとは……)
尾崎紅葉の作品は、どれもすごく面白いのですが
文語調で書かれているものが多いため
現代の人には、ちょっととっつき難いと思われてしまうかも知れません。
でも
こちらの「多情多恨」
これは口語で書かれているので
とても読みやすく、お勧めですよ!
この作品は珍しく
男性が主人公です。
最愛の奥さんを無くした人見知りの激しい変人の男の人が
親友夫妻の親切によって
メソメソ泣いてばかりの日々から立ち直っていくというお話です。
紅葉の小説って、全体を通して
どこか
カラッと明るい感じがするんですよね。
「金色夜叉」にしても
「多情多恨」にしても
どんなに主人公が悩んだり泣いたりしていても
不思議とサッパリした印象を受けるんです。
その明るさにはきっと
粋で親分肌だった紅葉の
竹を割ったような江戸っ子気質が反映されているのかもしれませんね。
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