TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

物語詩「月影五番街」

この物語詩は遥か昔

20歳くらいの時に

友人たちとやっていた文学同人誌に発表したものを元にしております。

 

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月影五番街

 

   一

 

かれらは街を棄ててゆく

 

風に吹かれた落葉のように

春に散り行く桜のように。

 

ここでは得られぬ なにかを求め

ぞろぞろ 

ぞろぞろ

列なして

 

かれらは街を 後にする。

 

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店は畳まれ 外灯も消えて

目抜き通りの寂しさよ。

 

されど

 

高いとこから低いとこ

水が流れて行くように

 

人の心は止められぬ。

 

   二

 

「みなさん それではお達者で」

ハンカチ振って見送って

残った者たち呟いた。

「彼らは あまりに薄情だ」

 

わしらはここに留まるよ。

ここが一番好きだから。

 

この地で生まれ この地で育ち 

この湧き水を飲んできた。

 

古い舗道も街並みも

赤い煉瓦の公園も

見るものすべてが懐かしく

触れるものみな愛おしい。

 

だから

 

わしらはここを離れない。

 

ここが好き

ここが好き。

 

この街でなきゃ嫌だもの。

 

   三

 

残った人々は語り合う。

 

これからは

残された者たち同士

しっかり仲良くやっていこう。

 

嘆いていたって仕方がない。

 

明るく元気に前向きに

建設的に考えよう。

 

そうだ 良い事考えた。

 

もうこれ以上

街を棄てるものの出ないよう

 

みんなの心をまとめるために

そろいの着物を着たらどう?

 

みんなで がっちり力を合わせ

一丸となって頑張ろう。

 

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おそろいの服は空の色

心がわくわくしてくるよ。

 

おそろいの服は なんだか不思議

着れば力が湧いてくる。

 

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みんなに推されて町長になった

髭の親爺がこう言った。

 

「みんな仲間で みな同志

これを着ていりゃ

血のつながった一族と 

同じこと。

 

みんなでがっちり力を合わせ

また

この街を盛り上げよう。

 

パン屋がなくて困るなら

きみがパン屋になればいい。

靴屋がなくて困るなら

わしが靴屋になろうじゃないか」

 

一同

深く感じ入り

涙を流して頷き合った。

 

   四

 

一年、二年、三年経った。

 

そんなある時 突然に

大都会に出て行った

娘が遊びにやってきた。

 

シャボンみたいな七色の

ドレスの裾をひらつかせ

女優さながらきらめいて

娘が街にやってきた。

 

地元に残った娘たち

飴を見つけたアリの様に

シャボンのドレスに群がった。

 

都会の娘は得意げに

都会の雑誌を取り出した。

いろんな色や

いろんな形

心ときめく素敵なドレス。

 

街の娘たちは

ため息をついた。

 

自分たちのおそろいの服

空色の服が

 

なんだか急に

つまらないものに見えてきた。

 

 

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   五

 

街の真ん中の噴水で

娘たちが ひそひそ話。

 

話を聞いて 若者たちが

腕組み うなずく

ふんふんふん。

 

「わたしたちだって おめかししたい

花の盛りのこの年で

おばあさんやおばさんと

おんなじ服なんて 悲しいわ

花みたいな 小鳥みたいな 

素敵な服で飾られたい」

 

「おれたちだって女の子は

綺麗にしている方が うれしいさ

誰も彼も

老いも若きも男も女も

全く同じ格好してるだなんて

なんだかちょっと馬鹿げてる 

味気ないったら ありゃしない」

 

みんなおそろいの

空色の服

着るのを やめて

しまおうか?

 

   六

 

そうしていつしか若者たちは

そろいの着物を

やめてしまった。

 

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彼らの親は驚いて

がたがた震えて 顔は真っ青

息子や娘を揺さぶりながら

 

「この街の団結を 壊す気かい?」

 

わななく声でこう言った。

 

「決して表に出るんじゃないよ

ご近所に知られちゃ大変だ。

裏切者は 許されない」

 

   七

 

しかし一人の若者が

黄色いシャツに

みどりのズボン

赤い帽子で

飛び出した。

煉瓦の街を 口笛吹き吹き 闊歩する。

 

「おそろいの服なんか

もうイヤだ。

おいらが着ける服くらい 

おいらの自由にさせてくれ!」

 

閉じ込められていた若者たちは

窓から乗り出し大喝采

大人たちは みな凍り付き

幼い子供は わけもなく

ぴょんぴょん跳ねて大はしゃぎ。

 

   八

 

パン!

と 乾いた 音がした。

 

噴水の前でおどけた彼は

頭を撃たれてぶっとんだ。

 

かたくつめたい石畳の上

広がってゆく彼の血だまり。

 

そこからすこし離れた場所に

銃を構えた靴屋の親爺。

 

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ああ

いたましき若者よ。

 

靴屋の親爺は彼を踏みつけ

声高らかに こう言った。

 

街の団結を守るため

街の平和を守るため

裏切者は処刑する。

 

街中を

震わすばかりに沸き起こる

拍手

そして歓声。

 

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  九

 

それから街は

二つに割れた。

若者とその親たちと

何が何でも

おそろいの服を着るべきだ

という人たちと。

 

昼でも夜でも

戦い続け

 

十年も経つと

みんな死に

 

街はすっかり

廃墟になった。

 

おそろいの服は

なんのため?

 

いがみあい

憎み合い

殺し合いをしてまでも

 

守らなければならないの?

 

   十

 

おそろい

おそろい

 

オソロイは

 

死を招くほどに

 

オソロシイ。

 

    十一

 

深い深い

森の中の

くさむらの奥にある

 

小さな小さな

小人の街の話である。

 

夜になると

月光に

ちらちらと噴水が光るので

 

小鳥たちの間では

「月影五番街」と

ささやかれた

 

美しい街の話である。

 

 

 

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