TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

難解?わけわからん? 泉鏡花について

今回は泉鏡花について語らせていただきます。

 

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私が鏡花を読み始めたのは、敬愛する吉川英治先生が「忘れ残りの記」という自叙伝の中で、少年時代の読書歴として

ぼくらはそろそろトルストイだのモウパッサンだの、やれ江戸文学では秋成か西鶴だなどと小生意気をいい出していたので、曙山や黙禅や幽芳などではあきたらなくなり、よくわからないくせに四迷、独歩を経て、

また泉鏡花に傾倒していた。誰もいちどは罹るという鏡花病にぼくもそろそろ初期程度の徴候をもち出していた。

と書かれていたからです。

 

 

神ともあがめる吉川先生がそこまでハマっていたというからには、何が何でも鏡花の魅力を探らねばなるまい!!

 

 

そう思った私は、書店や古本屋で鏡花の本を見つけるたび、手当たり次第に買っては読み、買っては読みし、今までに文庫本十四冊を読みました。

 

最初に読んだ鏡花作品は図書館の全集本の巻頭にあった

「琵琶伝」です。

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ヒロインお通の愛鳥「琵琶」

 

その時の感想は、当初抱いていたイメージと違い過ぎていたせいもあり、正直言って

 

「なんだこりゃ」

 

という感じでした。

 

あまりにも荒唐無稽過ぎる展開に、眩暈すら感じてしまいました。。。

 

「琵琶伝」の内容は、簡単に言うとこんな感じです。

 

いとこ同士で恋仲の二人。

だが彼女の方は許嫁である性悪な軍人と結婚してしまう。

彼氏の方は徴兵になり、あと数日で外地に赴く所。

そんな彼が一時的に兵舎を抜け、彼女の実家に立ち寄った。

いとこの母が言う。

「娘はあなた恋しさに、嫁入り先でご飯も食べずに死にそうになっている。あの娘に一目でも顔を見せてやっておくれ」

「えっ、でも僕はもうすぐ隊に戻らないと規則違反になって罰せられてしまいますよ」

戸惑う彼だが、叔母は強引に頼みこむ。

「罰せられても良いじゃないか。お願いだから隊には戻らないでおくれ」

戸惑いながらも彼はそれを承知する。

そして彼女の嫁ぎ先に行ったのだが、

彼女の夫である邪悪な軍人が、愛する二人を阻んでくる。

いとこの彼は、庭先で番犬に噛まれたり発砲されたり。

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結局は、追っ手につかまってしまい

無残にも銃殺されてしまうのです。。。

 

この「琵琶伝」以外にも、

 

 「外科室」

(今まさに大手術を施されようとしている伯爵夫人が突然「麻酔はかけないで頂戴」などと言い出し、みんなが当惑するのだが、主治医は平然と「それでは麻酔無しで手術しましょう」などと言い出す)

 

「夜行巡査」

(職務にきっちり忠実な巡査が、パトロール中に、自分の恋人が因業爺にいびられている場面に出くわすのだが、巡査は異常なまでにおのれの「きっちり」に拘るため、臨機応変な行動が出来ない)

 

といった

鏡花が二十三、四歳のころに書いて評論家たちから「観念小説」と称された 作品は

 

登場人物の性格の極端さ、行動の異常さが際立ちすぎて、

最初の内は

「ついていけん」

と思ったのですが、

 

その後数多くの鏡花作品を読み、彼独特の「鏡花世界」にどっぷり浸りきったのちに、再び改めてこれらの作品を読むと

 

あら不思議。

 

危険なまでに暴走している超独創的なその世界が、ビシバシつぼに嵌りまくり

 

今ではとっても大好きな作品になっています。

 

これらの初期の作品は、文語調で書かれてはいるものの、文章は簡潔で大変読みやすいです。

 

口語体になってからの作品も「高野聖」や「婦系図」あたりは大変に読みやすい文章だと思うのですが。。。

 

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高野聖

それ以外の作品の多くは、一般的な小説の文章とは違って非常に独特なものがあるために、

「何を言ってるのか良くわからず、今一つ話の内容が掴みづらい」

と思われるかもしれません。。。

(私は最初そう感じました)

 

でもこれも、やはり慣れでして、いくつか読んでいくうちに読み方というのが分かったような気がしました。

 鏡花の作品というのは、印象派の絵画に似ているような気がします。

 

間近に顔を寄せているとよくわからないようでも、ちょっと俯瞰したような感じで読んでいると、次第にその世界がわかるようになってくるのです。

だから、小説というよりは詩を読んでいるような感覚で読むと、その世界に入りやすいように思います。

 

 

「春昼」「春昼後刻」「草迷宮」あたりの、幻夢と現実のはざ間をゆらゆらと漂うような不思議な感覚が、私はとても好きです。

 

お化けや美女や血みどろ惨事に彩られ、

幽玄華麗と謳われる鏡花世界。

 

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そんな中にもチョイチョイ差し挟まれているユーモラスな表現に、

私は、鏡花という人のお茶目さを感じます。

東海道中膝栗毛」を愛読し、

 

幾ら繰り返してもイヤにならなくて、どんなに読んでも頭痛のする時でも、快い気分になるのは、膝栗毛です。

「いろ扱い」より

 

と言っていたくらい、お笑い好きだった鏡花。

 

彼の初期の観念小説は、

実は「狙った上での渾身のギャグ」だったのではないか?

そんな風に、私は密かに思っています。

 

 

 

 私の本もよろしくおねがいします。