TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

難解?わけわからん? 泉鏡花について

今回は

明治時代後期から昭和の初期にかけて活躍し

幽玄華麗かつ

いささか狂気な作風で今なお非常に人気の高い作家

泉鏡花(1873-1939)

について語らせていただきます。

 

 

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私が鏡花作品を読み始めたきっかけは

敬愛する吉川英治先生

「忘れ残りの記」という自叙伝の中で

少年時代の読書歴として次のように述べられていたからです。

 

ぼくらはそろそろトルストイだのモウパッサンだの、やれ江戸文学では秋成か西鶴だなどと小生意気をいい出していたので、曙山や黙禅や幽芳などではあきたらなくなり、よくわからないくせに四迷、独歩を経て、

また泉鏡花に傾倒していた。

誰もいちどは罹るという鏡花病にぼくもそろそろ初期程度の徴候をもち出していた。

 

神ともあがめる吉川先生が

そこまでハマっていたというからには、

何が何でも

鏡花の魅力を探らねばなるまい!!

 

─── そう思った私は、それ以来

書店や古本屋で鏡花の本を見つけるたびに

手当たり次第に買っては読み、買っては読みし

今までに文庫本14冊を読みました。

(鏡花って多作で、作品は300以上もあるんですよ!)

 

 

一番最初に読んだ鏡花作品は

図書館で借りた全集本の巻頭にあった

「琵琶伝」でした。

(※明治29年・鏡花23歳の時の作品)

 

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ヒロインお通の愛鳥「琵琶」

 

その時の感想は……

大変申し上げづらいのですが……(-_-;)

 

……正直言って

「なんだこりゃ」

という感じでした……。

 

あまりにも荒唐無稽過ぎる展開

軽く眩暈すら感じてしまいました……。

 

 

「琵琶伝」の内容は

簡単に言うと以下のような感じになります。

 

----------------

 

いとこ同士で恋仲の二人。

しかし、女の方は許嫁である性悪軍人と結婚してしまっている。

男の方は徴兵になり、あと数日で外地に赴く所である。

 

そんな彼が一時的に兵舎を抜け、彼女の実家に立ち寄った。

 

いとこの母が言う。

「娘はあなた恋しさに、嫁入り先でご飯も食べずに死にそうになっているんだよ。あの娘に一目でも顔を見せてやっておくれ」

 

「えっ!?  でも僕はもうすぐ隊に戻らないと、規則違反になって罰せられてしまうんですが……

戸惑う彼だが、叔母は強引に頼みこんでくる。

罰せられても良いじゃないか。ねえお願いだから隊には戻らないでおくれ」

 

戸惑いながらも彼はそれを承知してしまう

 

そして彼女の嫁ぎ先に行ったところ───

案の定、彼女の夫である邪悪な軍人は、愛する二人を阻んでくるのである。

 

いとこの彼は、庭先で番犬に噛まれたり発砲されたりと、散々な目にあわされてしまった。

 

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挙句、彼は、ついに追っ手につかまってしまった。

(規則違反で隊に戻らなかったから)

 

そして彼は

無残にも銃殺されてしまったのであった……。

 

        (完)

----------------

 

この「琵琶伝」以外にも

 

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「外科室」(※明治28年・鏡花22歳の時の作品)

 

 

今まさに大手術を施されようとしている伯爵夫人がいる。

ところが、彼女が突然

「麻酔はかけないで頂戴」

などと言い出したものだから

付き添いの人々をはじめ、みんなは大当惑

 

ところが

主治医は平然とした顔でこう言った。

「それでは麻酔無しで手術しましょう」

 

実はこの二人は、ずっと昔の若い時代

お互い遠目に

チラッと見た瞬間に恋に落ちていたのである。

 

その時はもちろん

その後も

 

二人の間には、会話を交わすなどの交渉は全く一切無かったのではあるが

 

二人は今、この恋のためには殉じても良い!という気分になっていたのである……。

 

        (完)

 

----------------

 

「夜行巡査」(※明治28年・鏡花22歳の時の作品)

 

職務にきっちり忠実な巡査がいる。

 

トロール中の彼は

自分の恋人が根性悪の因業爺にいびられている場面に出くわしてしまった。

 

しかし

巡査は異常なまでにおのれの「きっちり」に拘る性格ときている。

なにせトロール中に費やすべき歩数まできっちり決めている位なのだ。

 

そのため彼は

臨機応変な行動をとることが出来ない。

 

しかし

 

そのうち

その因業爺が

ウッカリ誤ってお堀に落ちて溺れそうになってしまった。

 

巡査は職務遂行のため

「きっちりと」

因業爺を助けるべくお堀に飛び込んた。

 

だがしかし

実は彼は泳げなかった。

 

そのため彼は

おぼれ死んでしまったのである。

 

       (完)

 

----------------

 

これらの

鏡花が22~24歳の、ごく若いころに書いていた小説は

評論家たちから

「観念小説」

と称されていたのですが

 

登場人物の性格の極端さ

行動の異常さが際立ちすぎていて

 

読みながら

「なんでやねん!」

と突っ込みを入れてしまうような所ばかりで

 

正直

「ついていけん」

と思ったのですが、

 

その後数多くの鏡花作品を読み

彼独特の「鏡花世界」にどっぷり浸りきったのちに

再び改めてこれらの作品を読んだところ

 

あら不思議。

 

超独創的なその世界が

 今度はことごとく

私の「面白さ」を感じるツボに嵌りまくってきて

 

今では

とっても大好きな作品群になっています。

\(^∀^)/

 

 

これらの初期の作品は文語調で書かれているので

ちょっと取っ付きにくいと思われるかもしれませんが

文章は比較的簡潔で

わりと読みやすいと思います。

 

口語体になってからの作品も

 

高野聖(明治41年・鏡花28歳の時の作)

婦系図(明治40年・鏡花27歳の時の作)あたりは

わりあい読みやすい文章かな───と思うのですが……

 

 

 

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高野聖

 

それ以後の作品の多くは

 

一般的な小説の文章とはかなり違って

非常に独特なものがあるために

(誰が何をした何がどうだ、がボンヤリとして不鮮明なんですよね)

 

正直

「何を言ってるのか良くわからず

今一つ話の内容が掴みづらい」

と思われるかもしれません。

(私はそう感じてしまいました)

 

「何を言っているのか、全然わかんないぞ……」

 

どうも

師匠、尾崎紅葉の影響下にあった初期のものほど読みやすくて

 

後期になればなるほど

鏡花独自のボヤボヤ感が強まっているような気がしてならないのですが……。(^^;)

 

とはいえ

 

これも

やはり慣れなのかも知れません。

 

鏡花作品を数多く読んでいくうちに

彼の文章の読み方というのが

分かったような気がしました。

 

鏡花の作品というのは、

印象派の絵画に似ているような気がします。

 

 

間近に顔を寄せているとよくわからないようでも

ちょっと俯瞰したような感じで読んでいると

次第にその世界がわかるようになってくるのです。

 

だから、

小説というよりは

詩を読んでいるような感覚で読むと

その世界に入りやすいように思います。

 

論理ではなく感覚で読ませる文章

(それも、詩ではなく小説で)

って非常にユニークですよね。

 

すごく独特で前衛的な印象すら受けるのですが

鏡花の場合

その手法を考えて編み出したというより

自然体で書いたら、どうしてもそうなっちゃうという感じがするあたり

 

生粋の

天才肌の人なんだと思います。

 

「春昼」

「春昼後刻」

草迷宮あたりの

幻夢と現実のはざ間をゆらゆらと漂うような不思議な感覚が、私はとても好きです。

 

お化けや美女や

血みどろ惨事に彩られ

幽玄華麗と謳われる

鏡花世界。

 

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そんな中にもチョイチョイ差し挟まれている

ユーモラスな表現に

私は、鏡花という人のお茶目さを感じたりもしています。

 

日頃「東海道中膝栗毛」を愛読し

 

幾ら繰り返してもイヤにならなくて、どんなに読んでも頭痛のする時でも、快い気分になるのは、膝栗毛です。

 

随筆「いろ扱い」より

 

なんて言っていたくらい、

ユーモア好きだった鏡花。

 

彼の初期の観念小説は

 

実は

「狙った上でのギャグ」

だったのではないか?

 

そんな風に、私は密かに思っています。

 

 

 

 

 

関連記事のご紹介

 

 

鏡花の出世作「義血侠血」を師匠・尾崎紅葉がガッツリ添削したという話

todawara.hatenablog.com

 

 泉鏡花の尊敬するお師匠様・尾崎紅葉について。

todawara.hatenablog.com

 

 直木三十五に気の毒なほどイジられている泉鏡花

todawara.hatenablog.com

 

 

 

こちらは私の本になります。よろしくお願いいたします。

台風スウェル

台風スウェル

 

 

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