今回は、文学博士三浦佑之先生監修
「童話ってホントは残酷」という本のご紹介をいたします。
グリム童話などを始めとして
「童話って本当はこんなに怖い話だったんだよ~」
というような事を紹介した本や漫画は
現在、いろんな出版社からわんさか出版されております。
今回ご紹介するこの本も
そんな中の一つという事になるのですが
この本を大変強烈に印象付けるのは
何と言っても
童話のもつ残酷さを
ゾクゾクするほど効果的に表現している
筆者の鋭い言語感覚
です。
童話の内容が残酷で怖い
ってことは
本のタイトルからして、すでにわかりきっている。
(つまり、読者側としては、それがどれほど怖いものなのかという期待値が高い)
───と
このような本である場合
その「怖さ」の伝え方のいかんによって
面白くなるか、凡庸に終わるかの大きな分かれ道となります。
「残酷な童話」という素材自体は
なかなか美味しいものであるために
これを料理して出すレストランは沢山あるのですけれど
これが極上料理になるか、平凡な料理になってしまうかは
ひとえに
コック(筆者)の腕(文章力)次第。
その点で言うならば
この本の筆者は間違いなく
「凄腕シェフ」だと言い切ることができるでしょう。
恐ろしさを描く手腕は
背筋が寒くなるほど秀逸です!
地の文の語りは穏やかな「です」「ます」調で
優しく穏やかに、物語は進行していくのですが
「残酷場面」にかかるやいなや、筆者は
読者の恐怖のツボを
ピンポイントで刺激するように
簡潔かつ的確な表現を使って
読者の総身の毛を
ゾワワワワーッ
と立たしめるのです。
───と、まあ
私がそんな風に言いましても
なかなかこの凄さは伝わらないと思いますので
百聞は一見に如かず。
具体的に該当箇所を引用して
紹介させていただきます。
以下にご紹介しますのは
「猿蟹合戦」のお話で
最終的な場面の表現です。
──おまえなんか、いなくなってしまえ!──
最後に屋根の上でころ合いを見計らっていた石臼が、倒れたサルの頭目がけて、飛び降りました。ドスン。同時にグチャ、という音がして、熟れた柿が地面に落ちた時よりも、もっと大きな音がしました。
臼の下から血が滲みだすと、一部始終を見ていたカニが出てきました。栗やサルの体にくらいついていた畳針や臼もサルから離れ、みんな無言でしたが、興奮して上気した顔で、血まみれのサルの死骸を取り囲んでいました。
ひぃぃぃぃぃ~!!( ;∀;)
「ドスン」「グチャ」
「熟れた柿」
「臼の下から滲み出る血」!!
筆者はこの文章の後
「いくらなんでもこの仕打ちは、サルに対して酷すぎる」
とサルに同情し
「いつの間にか彼らは、正義をかさに着た集団リンチにカタルシスを感じるようになってしまっている」
と、カニとその仲間たちに対して批判的な目を向けています。
(優しい人なんですね)
その点は私も全く同感です。
集団心理の暴走って怖いですよね……。
が
それはともかくといたしまして。
一介の小説書きとして、私が注目せざるを得ない
そして
ぜひとも見習いたいと思うのは
ここにおける
絶妙過ぎる、この描写の仕方なんです。
なんとシンプルな言葉で
なんと効果的に
このシーンのおぞましさを表現している事か!!
また
イソップ童話で有名な
「オオカミが来たぞ」
と嘘をついては、人々をかついでいた
少年の最後の場面は、こんな風に描かれています。
「ぎゃああああああ!」
少年の悲鳴は村じゅうに響き渡り、あとには無残に食いちぎられた、誰とも判別のつかない肉のかたまりが転がっていました。
「誰とも判別のつかない肉のかたまり」!!
生々しすぎて血の匂いまでが漂ってきそう!!
この丁寧な「ですます」調との対比がまた
恐怖を一層、際立たせます。(;・_・)
ものごとを文章で伝えるやり方としては
「豊富な語彙を駆使して、多くの言葉を使って伝える」
という方法もありますが
そういうやり方よりも
「なるべく短い文で、選び抜かれた的確な言葉を使って表現する」
というやり方のできる人の方が
私は、すごいと思っています。
そういう表現ができる人っていうのは
厳選された簡潔な言葉の背景に
膨大な語彙の知識があるはずであり
なおかつ
そこから一番ぴったりはまる言葉を選び出してくる
という
卓越した言語センスを持っているはずだからです。
そう
三浦佑之先生は千葉大学文学部の名誉教授でいらっしゃり
日本の昔話や伝説などの伝承文学を専門に研究なさっているそうで
小説家の三浦しをんさんのお父様だそうです。
文学博士にして文士の父
というプロフィールからすれば
文章が上手いのも当然のように思われたのですが
よーく見てみると、お名前の横に
「/監修」とあるんですよね……。
え?
それじゃあ、本文を書いたのは誰?
と思って目次の裏を見たら
桜澤麻衣さん
と、お名前がありました。
ライターさんでしょうか
編集者さんでしょうか
それとも三浦先生のお弟子さんなのでしょうか?
いずれにしても
桜澤麻衣さん、
スゴイです!!
こういう表現ができる人というのは
自然とその身に備わっている
非凡な言語センスがあるんだと思います。
「童話は実は怖いよ」系の本は
現在、あまた世に出版されてはおりますが
この「童話ってホントは残酷」は
桜澤さんの必殺仕事人を思わせる、巧みな描写によって
ホントにその残酷さ、怖さを堪能できます。
それにしても
このタイトルはもうちょっと工夫できなかったのかな。
ちょっと投げやりなんじゃない?
などと思いつつ
表紙絵を改めてよくよく見てみたら……
ニッコリ微笑んでる赤ずきんが持っているのは…………
血まみれの斧と
血の滴り落ちるオオカミの首!?
お、お、お、お、お……
恐ろしい……。(+_+;))
関連記事のご案内
北原白秋の言語センスもさすが、凄いですよ。
童話も残酷だけど、民話もかなり残酷。
カブトムシのオス同士を一緒に飼うのは残酷。
飛行機のバキュームトイレも昔はこんなに残酷でした。
こちらは私の本になります。よろしくお願いいたします。