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戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

谷崎潤一郎「猫と庄造と二人のおんな」の感想~結局の所にゃんこの可愛さにはかなわない!

今回は

 谷崎潤一郎昭和11年発表した長編小説

 「猫と庄造と二人のおんな」

のご紹介をいたします。

 

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あらすじ

 

 

人柄は穏やかだが、ボンヤリとしていてほとんど生活能力が無い

荒物屋の一人息子庄造

 

彼は前妻品子を離縁して

従妹の金持ち娘福子と再婚したばかり。

 

働き者で几帳面な品子を追い出して

わがままな不良娘の福子を庄造とくっつけたのは

 

計算高い庄造の母おりんである。

(父はすでに亡くなっていて母一人子一人家庭)

 

気が強いおりんは、同じように気が強かった品子とはソリが合わず

彼女の事が大嫌いだったのだ。

 

資産家の(庄造にとっては伯父)が娘の福子の不行状に

「これでは嫁の貰い手が無い」

とこぼしていたのをチャンスと捉えたおりんは

 

兄と共謀して

福子と庄造がくっつくように仕向け

 

案の定

二人がいい仲になった所で

福子を家に引き入れ

 

品子を家から叩き出してしまったのだ。

(鬼畜!!)

 

おりんにとっては

これで

目障りな品子はいなくなり

(福子とおりんは相性バッチリ)

息子の将来の心配も無くなり

ホッと一安心といったところ。

 

もっか

庄造と福子の夫婦仲はそこそこ良好。

 

とはいえ、特に

熱烈というほどでもない。

 

なぜなら

 

庄造が一番好きなのは

福子でも品子でもなく

 

飼い猫のリリー(雌)だったから。

 

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彼のリリーへのメロメロな溺愛ぶりは

前妻の品子や福子も呆れるほど。

 

庄造とリリーは余人の入ることができないくらいの

相思相愛状態なのである。

 

───さて

 

何の落ち度もなく離縁され

家を追い出されてしまった品子。

 

憤懣やるかたない思いの彼女は

ある一計を思い立ち

福子に向けて一通の手紙を差し出した。

 

「何の落ち度もなく叩き出された哀れで寂しいこの私に、夫を返せとは言いませんけど、せめてリリーちゃんを譲ってくださいな。

あなたたちは相思相愛でお熱い仲なんでしょうから、もうリリーちゃんの入る余地なんて無いでございましょ?

それとも、もしかして、まだあの人リリーちゃん無しでは不足を感じたりするのかしら?

まさか、あなたまで猫以下に見られてるなんて、そんな事ありませんわよね。

 

オホホホホホホ、もうそんなこと、どっちにしたかて私には関係ないのでしたわねえ、けどほんとうに御用心なさいませ、

たかが猫ぐらいと気を許していらしったら、その猫にさえ見かえられてしまうのですわ。

私決して悪いことは申しません。私のためより貴女のためを思うて上げるのです。

あのリリーちゃんあの人の側から早う離してしまいなさい、

あの人それを承知しないならいよいよ怪しいではありませんか。

 

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挑発するように書かれたこの文面

カチンと来た福子は

 

「リリーを品子さんの所にやってしまいなさい。そうしないと私は実家に戻るから!」

 

そう言って庄造に強く迫った。

 

 

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福子に出ていかれてしまっては経済的に困ってしまう。

母親までもが

「猫なんか品子にくれてやれ」

と迫ってくるので

 

気の弱い庄造は

泣く泣く断腸の思い

最愛のリリーを品子に譲る事にしたのだった。

 

品子はかつて庄造の家で暮らしていた時

夫が自分よりも猫ばかり可愛がることに焼きもちを妬いていた。

 

だからたまに

リリーの事をいじめた事もあった。

 

そんな彼女がリリーを引き取ることにしたのには

こんな計算があったからだ。

 

「リリーさえこっちの手に置いておけば、庄造はこっちにやって来ざるをえまい。

福子みたいな身持ちの悪い女との結婚生活なんて

どうせそう長くは続かないはず。

そうすればそのうち敗者復活で復縁の可能性だって……」

 

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───と

このような話なのですが

 

さすが

猫好きの谷崎潤一郎だけあって

猫の可愛さや魅力が、さまざまな角度からたっぷりと語られています。

 

庄造とリリーとの付き合いは十年近くと

品子や福子よりもずっと長く

その存在はほとんど伴侶のようなものであっただけに

 

無理やり引き裂かれるようにされた彼は

いてもたってもいられません。

 

そうは言っても庄造は

 

賢女ぶって自分を支配しようとしてくる品子の事が

 

実を言うと大嫌い。

 

だから

リリーに会いたい想いは猛烈でありながら

 

品子とだけは

絶対に顔を合わせたくない。

 

そんな思いにじりじりしながら

 

彼女の住まいの近くまで行って

「リリーが出てこないかな……」

と身をひそめながら張り込みをするのです。

 

 

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せめて一目だけでもリリーに会いたいよ……

 

それはまさに

恋人の姿を一目でも見たいという気持ちそのもの!

(相手は猫ですが)

 

 

─── 一方、品子も

 

最初のうちこそ

庄造を取り返してみせるという

意地と計算ずくだったのですが

 

リリーとの間に心の繋がりが出来るにつれ

急速に愛おしさを感じ始め

 

「ああ、なんて可愛いんだろう。

私のこの寂しい気持ちを、本当にわかってくれるのは

この子しかいない!」

 

という気持ちになって行きます。

 

毎日、猫と一緒に布団に入って寝るようになり

冷え性の品子にとって

リリーはもう

心身両面から欠かせない存在になるのです。

 

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こうして

気が付いてみたら

 

当初は

 

庄造をめぐる

品子VS福子

の三角関係だったのが

 

いつの間にか

 

リリーをめぐる

庄造VS品子

の三角関係になってしまっているのでした。

 

 

庄造が回想する

リリーとのあれやこれやの楽しい思い出。

 

そこに書かれている猫の描写や細かなエピソードは

大変にリアル

猫好きの人だったらきっと共感することが多いと思います。

 

また

品子とリリーが心を通じ合い

頑なだった品子の心がホンワカとほぐれていく場面は

愛おしいくらいに感動的です。

 

 

庄造をめぐる二人の女性が

これからどうなっていくのか。

 

作中では描かれていませんが

 

私はやっぱり

品子さんに幸せになってもらいたいなあ。

 

 と思いました。

 

 

 

猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)

猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)

 

 

 

 

 

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