今回も
江戸時代のお奉行様根岸鎮衛(やすもり)が集めた巷話集
「耳嚢」(みみぶくろ)からのお話をご紹介いたします。
今回ご紹介いたしますのは
ネズミと人間の間にうまれた美しい絆の物語。
参考文献は角川ソフィア文庫刊の
「耳袋の怪」です。
「鼠思い死(おもいじに)の事~但し鼠毒(そどく)妙薬の事」
これはわしがある人から聞いた話なんだがの……
西郷市左衛門という人の母が
ネズミを飼って可愛がっていたそうだ。
─── ところがある時
どうしたことか
そのネズミが母の指に噛みついたという。
それがことのほか傷み、
指がひどく腫れてしまった。
母のもとに立ち寄った市左衛門は
ネズミに怒り
「憎いやつめ。
畜生だからとはいえ、日ごろの寵愛もかえりみずに、
このようにアダをなすとは不届き千万!」
と打ち叩くと
ネズミは一目散にどこかへ逃げ去っていった。
その夜 ───
眠っている母の夢に
そのネズミが現れた。
「指に白いツツジの干したのをつければ、
鼠毒はたちどころに消えて、治りますよ」
そう言って
ネズミが枕元に白いツツジの花を置いたところで
母は夢から覚めた。
驚きながら枕元を見てみると
あのネズミは死んでおり
その口元には、白いツツジの花が咥えられていたそうだ。
その花を指の痛い所につけてみたところ
腫れはたちまち引いて
よくなったという。
(完)
ネズミ、死んでしまうなんて可哀想ですね……。
叩かれた時によっぽどダメージを受けてしまっていたのでしょうか。(T_T)
そもそも何で指に噛みついたりしたんでしょう?
母上と遊んでいて、思わずはしゃぎ過ぎちゃったんでしょうかね?
ちょっと新見南吉の「ごんぎつね」を思わせるような終わり方ですね……。
関連記事のご案内
「耳嚢」から~箱根の山にUFOが出た!?というお話。
「耳嚢」から~侍と可哀想なキツネのお話。
「耳嚢」から~人の顔が化物に見えてしまう奇妙な病の話。
こちらは私の小説です。よろしくお願いいたします。