今回は
江戸の天保年間に出版されて大評判となり
当時の女性達を熱狂させたという
「梅暦」(うめごよみ)シリーズ
のご紹介をいたします。
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「春色梅児誉美」
(しゅんしょくうめごよみ)
あらすじ
遊女屋「唐琴屋」の養子である
若旦那の丹次郎は、養父母亡き後
腹黒い番頭鬼兵衛の策略によって
唐琴屋を追い出されてしまった。
その挙句、体の調子まで崩してしまい
裏長屋で貧乏暮らしに耐えている。
だが
美男子である彼は
唐琴屋の娘で許嫁でもある
お長(優しい美少女&丹次郎にゾッコン)
と仲良くしながら
芸者の米八(勇み肌で性格も頭も良い美人)
とも恋仲になっており
(つまり二股)
実は今
米八に貢いでもらって生計を立てているのだった。
一方
丹次郎と米八との仲に全く気が付いていないお長は
イヤらしいそぶりを見せる鬼兵衛を嫌って家出をしたところ
人気のない所で悪者達に襲われそうになる。
危機一髪のピンチを救ってくれたのが
姉御肌で勇み肌の髪結いお由。
お長はお由を姉のように慕い
彼女の元に身を寄せたのだった。
そんなある日
お長は町でバッタリ丹次郎と出会う。
「一緒に食事して行こうよ」
と誘われて、二人は共に鰻屋の二階に入る。
お長と二人でいる時には
彼女に対してとことん優しい丹次郎。
そこに偶然
米八がやってきた。
丹次郎ピンチ!!
丹次郎と米八の様子から
お長はこの二人が深い仲になっている事を察してしまった。
米八が丹次郎に貢いでいる事を知ったお長の中で
ライバル心がメラメラ燃え上がってきた。
「私も負けずに丹さんに貢ぐ!」
彼女は女義太夫蝶吉となり
座敷を勤めて得た金を丹次郎に貢ぎ始めた。
さて
そんな座敷の客の中に
千葉の藤兵衛と言うお金持ちの旦那がいた。
実は彼
唐琴屋の花魁此糸(このいと)の上客で
此糸と仲良しである米八が
芸者として独り立ちする時に協力してくれた良い人なのだが
かつて髪結いお由と旅先でロマンスがあったらしく
ずっと想い合いながらも、運命のいたずらで離れ離れになっていた所
お長の引き合わせによりめでたく再会を遂げたのだった。
一方その頃
米八とお長
二人の美女から貢いでもらって
生活している丹次郎は
彼女たちの知らない間に
今度は
米八の芸者仲間の
仇吉(あだきち)と密かに良い仲になっていた。
(つまり三股!!)
が
それはさておいて……
実は藤兵衛
本田という武家に頼まれて
その朋輩である榛沢という武士の落しだねを探している最中だったのだが
その落しだねというのが
なんと
丹次郎であることが
判明してしまったのである!
さらに、お長までが
実は本田の落しだねだったことが判明。
さらにさらに
お由と米八が姉妹であったことなども
次から次へと判明するのであった。
こうして
丹次郎は武家の若様として榛沢家に迎えられ
お長を正妻
米八を妾として迎えたのである。
お由と藤兵衛も晴れて結婚。
ついでに唐琴屋の此糸も恋人の半次郎とくっついて
お長、米八、お由、此糸という四人の美女たちは
四人姉妹さながらに
仲睦まじく交わり合い
悪者の鬼兵衛は罰せられ
春になって梅がほころび
めでたしめでたし。
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「梅暦」シリーズの第一弾
「春色梅児誉美」の内容は
こんな感じになっているのですが
この話の大ヒットを受けて
「第三の女」仇吉と米八とが
真っ向対決してから和解へと至る物語
「春色辰巳園」
(しゅんしょくたつみのその)が書かれ
↓
さらに
「春色恵の花」
(しゅんしょくめぐみのはな)
「英対暖語」
(えいたいだんご)
「春色梅美婦禰」
(しゅんしょくうめみぶね)
といった続編の中で
登場人物たちのサイドストーリーが
それぞれ
小宇宙のように広がっていきます。
さて
その小宇宙とは一体どういうものかというと
これがまた
半次郎、宗次郎、峯次郎といった
色男をそれぞれに核として
米八の友人関係にあたる
美女たちが複数で
せめぎ合うという形になっているのです。
つまり
丹次郎を中心としたハーレムが
太陽系のようにあるその外側に
半次郎のハーレム
宗次郎のハーレム
峯次郎のハーレムが
それぞれに小宇宙を作っているのが
梅暦ワールドなのです。
─── で
ハーレムの美女たちはそれぞれに
一人の色男をめぐって
妬いたり泣いたり家出したりするのですが
最終的には女性同士
みんな仲良しになって
和やかに
色男を共有し合うのです。
いやあ……
現代の日本ではちょっと考えられませんが
お金持ちがお妾さんを囲うといういう事が
普通の事として受け入れられていた時代には
一人の男性を大勢の女性で仲良く共有する
っていう感覚は
異常でも何でもなく
普通に許容される感覚だったんでしょうね……。
浮気されたとしても
自分を大切にしてくれる限りは
それほど深刻な心理にもならず
当人たちが納得ずくで幸せでいられるのなら
それはそれで別にいいのかな……?
こんな内容
随分と男性に都合の良い話のようにも思われますが
読者の多くは
実は女性達だったんです。
それぞれの心境や事情が丁寧に描かれていて
心理的に納得させられるためか
私もあんまり違和感など感じることなく
かなり面白く読みました。
これ、ドラマ化したら
ヒットするんじゃないですか!?
このシリーズ
第一弾の「春色梅児誉美」だけは
為永春水が独力で書き上げたものなのですが
それ以外は全て門人たちとの合作で
チーム為永!
って感じで力を合わせて書いています。
話の舞台は明らかに江戸っぽいのですが
将軍様のお膝元でこのような情痴話を繰り広げるのには
さすがに憚りがあったのか
不自然な感じで
舞台は「鎌倉」とされています。
そんな風に気を使っていたのにも関わらず
為永春水は風俗壊乱の罪に問われ
手鎖五十日の刑に処せられてしまいます。
そして
翌1843(天保14)年の暮れ
失意のうちに
54歳でこの世を去ったのでした。
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