TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

モーパッサン「脂肪の塊」の感想~たしかにこのタイトルではヒロインが可哀想。いっその事「ムッチリ姐さん」とかにしちゃったらどうでしょう。

今回は19世紀フランス文学を代表する作家の一人

ギィ・ド・モーパッサン(1850-1893)

「脂肪の塊」

の感想を書かせていただきます。

 

 

 

この作品

 

昔から「脂肪の塊」という

ちょっと可愛げのないタイトルで知られているのですが

 

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こちらの本を翻訳された太田浩一さんによりますと

 

原題の「ブール・ド・スュイフ」

「脂肪のボール」くらいの意味で

現代でも、丸々と太った人をこう呼ぶことがあるそうです。

 

この物語の主人公であるエリザベート・ルーセ

むちむちした肉感的お色気美女

なので

こんなニックネームが付けられている……

 

──── というわけなので

 

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「脂肪の塊」なんて言うと

ちょっとグロテスクなイメージを抱いてしまいかねないけれど

 

本来的にはもう少し可愛いらしい

愛のあるニュアンスが含まれているようです。

 

 

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あらすじ

 

普仏戦争に負けてプロイセン軍に占領されているルーアンの街から

10人の旅行客たちが乗合馬車に乗り込み

ル・アーヴルまで逃れようとしていた。

 

馬車に乗った面々は

金持ち上流階級の夫婦もの6人と、2人の修道女革命家のコリュニュデ

そして

「ブール・ド・スュイフ(脂肪ボール)」と綽名されている

むっちりと色っぽい娼婦である。

 

金持ち上流階級の旦那衆は革命家のコリュニュデを暗に軽蔑し

ご夫人連はブール・ド・スュイフを小馬鹿にした会話を交わし合っている。

 

上流階級の6人衆は、そんな風にして車中の親睦を深め合っていくのだが

雪の降り積もった道。

馬車はなかなか思うようには進まない……。

 

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到着時間を大幅に過ぎているにもかかわらず

宿にはまだまだ当分着きそうにない様子である。

 

そのうち

 

彼らは耐えられない位の空腹に襲われ始めてしまった。

けれども

周囲に食べ物を調達できるような店や民家は、全く見当たらない。

 

そんな中────

 

ブール・ド・スュイフが

弁当にと持参してきた大量の食糧を取り出し

一人でムシャムシャと食べ始めた。

 

 

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全員の視線がことごとく女のほうへ向かった。

やがて、車内にいい匂いがひろがると、乗客たちの鼻孔はふくらみ、口のなかが唾液でいっぱいになって、耳の下の顎の筋肉が痛くなるほど引きつってきた。

この娼婦にたいする婦人たちの侮蔑の念は頂点に達し、この女を殺してやりたい、もしくは、カップやバスケットや食べ物ともども、馬車の外の雪の上に放りだしてやりたいと思うほどだった。

 

空腹のため、彼らは気絶してしまいそうな位なのだが

奥様方などは最前からさんざん彼女を小馬鹿にしていた手前

「お願いだから、それを分けてください」

などとは

到底、言い出すことが出来ない。

 

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そんな彼らに向かって

ブール・ド・スュイフは、おずおずと申し出た。

「よろしかったら、みなさんも一緒に召し上がりませんか?」

 

そして彼女は

乗客全員に食べ物と飲み物を振る舞ったのである。

 

 

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地獄に仏のような彼女の態度に

一同の態度は次第に打ち解けていった。

 

会話を交わしているうちに

この娼婦が実は気高い愛国者であったことがわかり

人々の態度は少しばかり「一目置くような」感じになって来た。

 

すっかり夜になってから

馬車はようやく

中継地点であるトートの街に到着した。

 

彼らは宿屋に入ったのだが、トートの街もプロイセンに征服されていて

重要な事は全て若いドイツ人士官が仕切っていた。

 

そして

このドイツ人士官

ブール・ド・スュイフを一目見るなり気に入ってしまったのである。

 

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しかし彼女は

プロイセン嫌いのバリバリの愛国者

 

言い寄ってくるドイツ人士官に対し

「あんたの相手なんかまっぴらごめんよ!」

とはねつけてしまう。

 

彼女のその態度に、旅の面々は皆

「アッパレだ」喝采を送るのであったが ────

 

これに対し

ドイツ人士官は

 

ブール・ド・スュイフが自分の相手をしない限り

乗客全員の出発許可を出さない!

と言って

 

何日も何日も

彼らに足止めを食らわせてきたのである。

 

彼女の態度を

始めのうちこそ支持していた人々だが

 

いつまでたっても出発できないことにいら立ち

次第にうんざりし始めてしまう。

 

「もういい加減に妥協してもらいたいなあ……」

「どうせ玄人なんだから良いじゃないか……」

 

人々はもはや

これ以上の足止めは我慢出来なくなっていた。

 

頑として士官の相手を拒み続けるブール・ド・スュイフを

何としてでも士官の元に送り込まなくては!

 

────こうして彼らは

一同で作戦を練るのである……。

 

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この先は話のキモであり

ネタバレになってしまうので

ここでストップしておきますが

 

「脂肪の塊」というタイトルや

「古典的名作」といった重々しいイメージとは違って

かなり軽快な語り口で、面白く読める群像短編小説です。

 

 

ただ

ここから先のラストにかけての展開は

さすがに「名作」と呼ばれるだけあって凄いです!

 

 

人々がさらけ出す身勝手さ偽善っぷり

自分の中にも

そんな部分が、決して無いとは言えないだけに

(また、そう思わせるほど自然な流れで彼らの心理や行動が描かれているだけに)

非常に身につまされるような気がします……。

 

また

上流人士たちが持つ鼻持ちならない

そして

どうにも抜きがたい選民意識。

 

こういうのって

どこの国でも、いつの時代でもありますよねぇ……。

 

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「セレブざんす!」

 

 

人間性の伴わない、身分経済力による

「私たちは偉い」感なんかに引き比べて

 

ヒロインの行動を通して見えて来る

 

 人間の本当の立派さ高潔さ────

 

そしてまた

それが必ずしも報われないという理不尽さ……。

 

そんな事を色々と

考えさせてくれるような

味わい深ーい名作です。

 

 

 

 

 

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トーマス・マンヴェニスに死す」について

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こちらは私の小説です。よろしくお願いいたします。

 

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