TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

彼岸花の咲く季節になると、北原白秋の「曼珠沙華」というちょっと怖い詩を思い出します。

彼岸花の美しい季節ですね。

 

秋のお彼岸の時期(9月半ば過ぎ頃)に咲く事から名づけられた彼岸花という名称には

 

毒草であるために

「これを食べたら彼岸(あの世)に行ってしまう」

ということに由来している

 

──── と言う説があります。

 

f:id:TODAWARA:20191002171052j:plain


また

 

この花が水田の畔や墓地に多く植えられているのには

毒によって害虫や獣などを近寄らせない

という理由もあるのだそうです。

 

そのため

「死人(しびと)花」とか

「地獄花」とか

「幽霊花」などという

 

おどろおどろしい別名で呼ばれたりもしていますが

 

f:id:TODAWARA:20191002175427j:plain

 

一方では

仏教で「天上の花」という意味を持つ

曼珠沙華という

美しい名で呼ばれていたりもします。

 

 

彼岸花が咲き始める季節になると

 

私はいつも

北原白秋のこの詩を思い浮かべます。

 

夢幻的な美しさと禍々しさが混ざり合った

魅惑的でちょっと怖い詩です。

 

 --------

曼珠沙華

 

GONSHAN(ゴンシャン). GONSHAN. 何処へゆく。

赤い、御墓の曼珠沙華(ひがんばな)、

曼珠沙華

けふも手折りに来たわいな。

 

GONSHAN. GONSHAN.何本か。

地には七本、血のやうに、

血のやうに、

ちやうど、あの児の年の数。

 

GONSHAN.GONSHAN.気を付けな。

ひとつ摘んでも、日は真昼、

日は真昼、

ひとつあとからまたひらく。

 

GONSHAN.GONSHAN.何故(なし)泣くろ。

何時まで取つても、曼珠沙華

曼珠沙華

恐や赤しや、まだ七つ。

 

 

f:id:TODAWARA:20191002171250j:plain

 

  --------

 

 

これは北原白秋が26歳の時

 

明治44年(1911年)に発表した抒情小曲集

「思ひ出」に収録されているものです。

 

それに先立つ明治42年(1909年)自費出版した

邪宗門でデビューした白秋は

 

それと「思ひ出」の大評判により

詩壇に確固たる地位を築いたのでした。

 

この詩に出て来る

「GONSHAN」という言葉は

白秋の故郷である福岡県柳川あたりの方言で

 

良家のお嬢さんという意味とともに

天上の花であるところの彼岸花

という意味もあるそうです。

 

 

邪宗門「思ひ出」

この二つの詩集には

 

白秋が柳川で過ごした幼い頃の不思議な記憶とか

ちょっと怪しげな切支丹文化異国情緒とか

当時まだ色濃く残っていた江戸時代の空気などが

混然一体となった摩訶不思議な雰囲気が漂っていて

私は大好きな詩集です。

 

 

お次に紹介します詩も「思ひ出」からです。

 

 --------

 

青いとんぼ

 

青いとんぼの眼を見れば

緑の、銀の、エメロウド

青いとんぼの薄き翅(はね)

灯心草の穂に光る。

 

青いとんぼの飛びゆくは

魔法つかひの手練(てだれ)かな。

青いとんぼを捕ふれば

女役者の肌ざはり。

 

青いとんぼの綺麗さは

手に触るすら恐ろしく、

青いとんぼの落ちつきは

眼にねたきまで憎々し。

 

青いとんぼをきりきりと

夏の雪駄(せった)で踏みつぶす。

 

 

f:id:TODAWARA:20191002171423j:plain

 

 --------

 

 

踏みつぶさないで~!

 

と思わず叫んでしまいそうになりますが

 

何となく愛おしさを感じながらも

次の瞬間には何故かアッサリ殺しちゃうような

こういう残酷さって

幼い時分にはあったりしますよね……。

 

私もチビッコ時代にはアリさん達に随分ひどい事をしてきました。(^^;)

 

第三節目からいきなりダークさを増していく展開が

ドキドキしちゃいますね。

 

 

 -------- 

 

爪紅

 

いさかひしたるその日より

爪紅(つまぐれ)の花さきにけり、

TINKA ONGO(チンカオンゴ)の指先に

さびしと夏のにじむべく。

 

 

f:id:TODAWARA:20191002172343j:plain

 

  --------

 

 

「TINKA ONGO」

というのは

柳川の言葉で「小さき令嬢」という意味です。

 

爪紅ホウセンカの別名で

昔はその花を揉んで爪を染めたんだそうです。

 

何となく捨て鉢な気分になって

爪を赤く染めている思春期の少女。

 

彼女の部屋に夏の夕暮れの日差しが斜めに差し込み

カナカナと鳴くヒグラシの声が聞こえるような気がします。

 

 

北原白秋の初期の詩には

美しさと懐かしさと不気味さが混ざり合った

ステンドグラス越しに見る悪夢のような雰囲気を感じます。

 

悪夢なんだけれども蠱惑的で魅力的

独特の世界にうっとりさせられてしまいます。

 

 

 

彼岸花の話から大分脱線して

 

北原白秋の詩の紹介になってしまいましたが

 

彼岸花の花ことばには

「悲しい思い出」

「あきらめ」

などという

いかにもな感じのものがある一方で

 

意外な事に

「情熱」

「独立」

「再会」

といったポジティブなものもあるんだそうですよ。

 

 

f:id:TODAWARA:20191002180849j:plain

情熱をもって頑張るぞー!

 

 

北原白秋詩集 (新潮文庫)

北原白秋詩集 (新潮文庫)

 

 

 

 

 関連記事のご紹介

 

 

木の葉舞い散る晩秋に北原白秋を想う

todawara.hatenablog.com

 

島崎藤村の詩にうっとり

todawara.hatenablog.com

 

 立原道造の詩「夢みたものは・・・・」

todawara.hatenablog.com

 

 与謝野晶子歌集のご紹介

todawara.hatenablog.com

 

 

 

 こちらは私の小説です。よろしくお願いいたします。

 

f:id:TODAWARA:20200703173755j:plain

 

 

台風スウェル

台風スウェル

 



 

 

f:id:TODAWARA:20200505115552j:plain