今回は
「和泉式部日記」
のご紹介をいたします。
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「和泉式部日記」
あらすじ
恋人だった為尊(ためたか)親王が26歳という若さで亡くなってしまった後
和泉式部は傷心と追憶の日々を送っていた。
そんな彼女の元に
故為尊親王の同母弟である
敦道(あつみち)親王がモーションを掛けてきた。
最初のうちはお互いに
軽い感じの恋の駆け引き。
けれども、いつしか
二人の心は
深く通じ合うようになっていく。
恋の噂の絶えない彼女に
敦道親王が疑心暗鬼になったり ────
そんな彼の誤解に対し
和泉式部が悲しくなってしまったり ────
われ一人 想ふ想ひは 甲斐もなし
同じ心に 君もあらなん
(私一人だけがあなたを想っているばかりでは甲斐がない
同じようにあなたにも私を想ってほしいのです)
君は君 我は我とも 隔てねば
心ごころに あらむものかは
(あなた様はあなた様 わたくしはわたくしなどと
区別などしてはおりませんもの
別々の心であろうはずがありませんわ)
そうこうしているうちに
やがて敦道親王が言い出した。
「こんなまどろっこしい思いはもう嫌だ!もういっそのこと、私の所に引っ越してきなさい」
それに対して和泉式部は
「そうしたいのは山々ですが、宮仕えなんて今までしたことが無いから不安です……」
あな恋し 今も見てしか 山がつの
垣ほに咲ける 大和撫子
(ああ、恋しい。今すぐにでも会いたい。
山里人の垣根に咲いている大和撫子のように可憐なあなた)
月の明るい冬の夜
ついに敦道親王は
彼女を家から連れ出した!
そして
そのまま自分の屋敷に住まわせたのだったが……
しかし
そのことで
親王の正妻(北の方)はついに堪忍袋の緒が切れてしまった。
「もうイヤッ!私はこの家を出て、姉(東宮の女御)の所に行きますッ!」
彼女はそう言い残し
屋敷を出て行ってしまった……。
おしまい
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なんてこったい~
妻帯者だったとは!!
ただ、彼に代わって言い訳をするならば
この時、彼と北の方(藤原済時の娘)との間はすでに冷めきっていたようなんです。
この物語は
「和泉式部日記」という題名ではあるものの
日記という形式では書かれておらず
第三者から眺めているような視点で
歌物語のように書かれています。
この後
敦道親王と和泉式部の間には岩蔵宮(出家して永覚と名乗る)という男の子が生まれ
ラブラブ幸せ生活を送っていたのですが
ほどなくして
敦道親王は27歳という若さで亡くなってしまいます……。
この物語は
敦道親王の想い出を風化させないために
彼の死後それほど年を経ない間に
和泉式部自身の手によって書かれたものなのではないか
──── と言われています。
(※作者は別人とする説もあり)
和泉式部という人は
当時から
美人で恋多き女性として評判だったようです。
物語の中でも
彼女は常に敦道親王から
「他にも付き合ってる男がいっぱいいるんだろう!」
と疑われ
そのたびに
「そんなの酷い誤解だわ!」
と嘆いたり弁解したりしています。
が
実際の所
この時の和泉式部には
橘道貞(みちさだ)という
レッキとした夫がいたんです。
(彼女の「和泉式部」という女房名は、夫の道貞が「和泉守」だった所から付けられています)
道貞との間には、小式部内侍という可愛い一人娘まで生まれているのですが
この当時、夫婦仲は完全に冷え切っていました。
夫婦仲が破綻した原因は
和泉式部が為尊親王(敦道親王の兄)との恋愛に走ったせいだとか
道貞が別の女性に心移りしたせいだとか言われています。
ちなみにこの為尊親王
大変なプレーボーイだったようで
「疫病が流行しているにもかかわらず新中納言だとか和泉式部だとか、女の所なんかにフラフラ通い歩いているから病死してしまったのだ」
と
「栄花物語」に書かれてしまっています。
和泉式部にはそれ以外にも
ボーイフレンド達がいたらしい事が知られています。
橘道貞と離婚し
その後
32歳くらいになってから
ちなみに
「和泉式部にはちょっと感心しない面(恋愛面?)もあるんだけど、彼女の和歌のセンスはまぁまぁ良いですよ」
39歳くらいの時
道長の家司をしている
藤原保昌(やすまさ)と結婚します。
この保昌という人
道長の家来のうちで四天王と呼ばれるくらい文武両道に優れた人で
「今昔物語集」や
「宇治拾遺物語」には
盗賊すらも彼の隙の無さには恐れをなしてしまった!
という
カッコ良い逸話が残っています。
若い頃からたくさんの恋愛経験を積み
男性を見る目の肥えまくっていた和泉式部
大当たりの伴侶を得て
モテ女の面目躍如
といった所ですかね。
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こちらは私の小説です。よろしくお願いいたします。