TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

ウィリアム・サローヤン「ディア・ベイビー」の感想~人生って切ないですね。人間って愛おしいですね。

今回はアメリカの作家

ウィリアム・サローヤン(1908-1981)

の短編作品をあつめて

ちくま文庫から出されたこちらの本

『ディア・ベイビー』

のご紹介をいたします。

 

ディア・ベイビー (ちくま文庫)

ディア・ベイビー (ちくま文庫)

 

 こちらの本には

 

サローヤンのデビュー作を標題とした

1935年刊の短編集

空中ブランコに乗った若者」

1945年刊の短編集

「ディア・ベイビー」から

21の作品が選ばれ、収載されています。

 

私が最初にサローヤン作品と出会ったのは、高校時代に使っていた英語のリーダーの教科書でした。

 

そこに彼の小説

「人間喜劇」の一部が使われていたんです。

 

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郵便配達の少年が兵士の家に戦死のしらせを届けに行く、という話だったような。

 

けれども当時の私は、英語という課目そのものが苦手であったため

それが面白いとか面白くないとか

そんな風に感じるほどの余裕は無く

したがって

全く興味も持ち得なかったのですが

 

今になって彼の作品を読むに及び

正直、かなりの衝撃を受けてしまいました。

 

サローヤン作品は

面白い!!

 

 

今回読んだ物語たちは

一編一編の長さが大変に短く

ショート・ショート以上短編未満

という感じで

 

話らしい「起承転結」みたいなものは

ほとんど無かったりするのですが

 

それでも

滅法面白い!!

 

 

形としては

物語としての体を成していないような

ある場面を

単に

切り取って描いただけ

みたいなものなのに

こんなにも面白く読ませてしまうなんて!

 

 

こ、これはタダものではない……

思わず唸ってしまいました。

 

 

きっとこれは

人や物事を観察する眼が鋭い上に

それを表現するのが非常に上手い。

文章が簡潔で、セリフ回しのテンポもいい。

 

などなど

 

並々ならぬ力量がなせる名人芸なのでしょう。

 

ものすごく話上手の人がする

とりとめのない世間話に

ついつい引き込まされてしまうような引力を感じます。

 

中でも一番すごいと思ったのは

表題作の

「ディア・ベイビー」

 

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孤独なボクサーとその恋人を描いた

ほんの20ページの物語ですが

この本の冒頭に置かれているので

初っ端から

いきなりノック・アウトを食らったような気分になりました。

 

ほろ苦い

ビタ―チョコレートのような味わいで

作中に出て来る音楽までが聴こえてくるような気がします。

(その曲を知らないのに)

 

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これほど短い物語の中に

こんなに雰囲気を描き込めるというのは驚きです。

(ここまで短いと、ストーリーを展開するだけで終わっちゃいそうなのに)

 

 

この本に収められた作品は

ほとんど全部、私のツボに嵌りまくっているですが

 

その中でも

 

生まれながらにして金儲けだけが生きがいで

学校にも行かずに商売に勤しんで一財産を成し

死ぬ間際まで保険のセールスの話だけしか出来なかった少年の話

「ハリー」

 

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競馬に狂って身を持ち崩しているロシア人に同情しながらも

実の所

語り手自身も競馬に狂って身を持ち崩しているために

ロシア人の方から同情されている

という

「フランス絵葉書の男」

 

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が特に好きです。

 

 

ウィリアム・サローヤン

1930年代~1940年代に活躍し

当時は大変な人気があったのですが

 

時代の変化と共に、彼の持ち味である

「人間に対する温かな視線」とか

「人生に対しての前向きさ」

古いとかぬるいとか言われ

今ではあまり読まれなくなってしまっているそうです。

 

ここに収められた作品群は

そんなサローヤン作品の中においては異色とも言える

苦い味わいのものばかりで

 

人間も人生も

ロクなもんじゃないかもしれない。

けれども、そこに

一抹の愛おしさを感じてしまうんだよ。

という作者の気持ちが

伝わってくるような気がします。

 

 

ウィリアム・サローヤン

 

1908年アルメニア移民の子としてカリフォルニア州フレズノに生まれ

2歳で父を喪って孤児院に入れられました。

 

7歳になり、女工の母に引き取られるものの

家計を支えるために新聞売り電報配達などで働き

学歴は中学2年までという

 

大変な苦労人です。

 

ところが大人になってからの彼は

 

ギャンブルに狂ったり

女優の奥さんにDVしたりと

 

かなりいただけない所もあったようです。

(あ~あ~あ~……)

 

 

作品の方は素晴らしいのに……

 

名作の作者に対して必ずしも

完全無欠の聖人君子であってほしい

とまでは思いませんし

 

本人にもどうしようもないほどの、苦しみや葛藤を抱えていたからこそ

これほどまでの作品が書けたのかもしれない ────

とも思うのですが

 

でもやっぱり

その人の作品を「素敵だ」「大好きだ」と感じていると

 

こういうのって

なんか、ちょっと

惜しい感じがしちゃいますねえ……。

 

 

 

 

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 こちらは私の小説です。よろしくお願いいたします。

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