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戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

直木三十五「南国太平記」~幕末薩摩藩のお家騒動を描いたダイナミックな群像劇

今回は

戦前の大衆小説の花形作家

直木三十五の代表作

「南国太平記

のご紹介をいたします。

 

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内容

 

時は幕末

舞台は南国薩摩藩

 

藩は目下

 

老藩主島津斉興(なりおき)とその愛室お由羅の方が率いる

保守派

 

 

40歳になっても家督を譲ってもらえない

頭脳明晰で人格温厚な若殿

斉彬(なりあきら)を支持している

革新派

 

この真っ二つに割れている所だった。

 

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薩摩藩がこうなってしまったのには

実は深い理由がある。

 

先々代の当主重豪(しげたけ)公

科学や蘭学に大変興味を持っていて

天文台を作ったり、薬物を研究したり

非常に進歩主義的な殿様だったのだが

 

これらの事には莫大な金がかかり

とてつもない大借金をこしらえてしまっていた。

 

ために

その次に当主となった斉宣(なりのぶ)公

徹底的な緊縮財政をとったのだが

 

その際、先代の作った施設などを

ことごとく壊してしまったため

 

老公重豪の怒りを買い

緊縮財政派の家臣が切腹させられてしまう事になった。

 

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薩摩藩としては苦い過去の事件である。

 

現在の藩の財政は

経済の達人、調所笑左衛門を家老に抜擢したことにより

だいぶ立ち直ってきてはいる。

 

しかし

後継ぎとなる斉彬

蘭学や化学に大変強い興味を持ち

紡績工場を作るとか

反射炉を作って大砲を鋳造するとか

 

まるで重豪公の再来のような進歩主義なのである。

 

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温厚篤実な人格者で頭脳も優れた斉彬

幕府の重臣たちから頼られ

藩の若者や下級武士たちからも絶大な人気がある。

 

しかし

なにせ、彼のやりたいような事は

いちいち金が莫大にかかるような事ばかり。

 

このままでは

せっかく立ち直った藩の財政が

また危うくなってしまう!

 

だからこそ

「ヤツに藩主の位を譲るわけにはいかない」

というわけで

 

幕府からの

「早く藩主を斉彬に譲れ」

という声も無視し続け

 

老いた斉興が藩主の座に居座り続けているのだった。

 

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また

彼の側に常に侍っている

愛妾お由羅の方

 

彼女にも

「わらわの息子久光をぜひとも後継ぎに」

という目論見があった。

 

そのためにも

斉彬は邪魔!

 

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その久光は、斉彬にすっかり心酔している。


 

そこで彼女は

斉彬の血筋を根絶やしにするため

 

道家(呪術師)の牧仲太郎に依頼して

斉彬の幼い子供たちを

次々に呪い殺してもらっていたのだった。

(すでにもう6人くらい呪い殺し済み)

 

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牧仲太郎は兵道を守るため、自分は正しい事をしていると信じて疑わない。

 

そんなある日

 

斉彬支持派の家臣

仙波八郎太の息子、小太郎

友人の益満休之助と共に藩邸(江戸)の床下に忍び込み

 

お由羅たちが斉彬の子供を呪殺している証拠となる

呪いの人形を手に入れた。

 

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床下に忍び込み、怪しい箱を発見。

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中から素焼きの呪い人形が!

 

八郎太はそれを藩の上の者に訴え出たのだが

それが守旧派の逆鱗に触れ

仙波家は取り潰しという憂き目に遭ってしまう。

 

一家五人は着の身着のまま

屋敷を叩き出されてしまった。

 

我々がこんな目に遭うのも全て

お由羅と牧と、その周りにいる守旧派の奸賊たちのせいである。

斉彬様のために我々は

命を懸けてでも、きゃつらを討ち取らねばならない!

 

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打倒お由羅!打倒牧!

 

仙波家の人々はそう誓いあい

憎き敵を討ち果たすため

 

父と小太郎母と綱手(上の妹)

二人一組になってそれぞれ旅立ち

 

一人残された末娘の深雪

お由羅殺害という使命を帯びて

女中として薩摩藩邸に潜入することになった。

 

こうして

ほんの少し前まで平凡に

幸せに暮らしていた仙波家の人々は

過酷苛烈な運命の大波に飲み込まれていくのである……

 

 

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こんなふうに筋だけを追っていくと

 

斉彬を支持する人々&仙波一家

斉興やお由羅などの保守派

 

という形の

VSの物語

のように思われるのですが

 

この物語の人物造形はそう単純ではなく

 

守旧派の人々にもそれなりに筋の通った言い分があり

また

優しさがあったりもするし

 

斉彬を熱狂的に支持している人々が

あまりにお家騒動のみに固執しすぎていて視野が狭窄で

 

肝心の

斉彬本人の気持ち(世界の中で日本は今後どうあるべきか)とは

大きくかけ離れていたりする所が

 

そうだよね~

人ってそうそう白黒割り切れるものでもないし

支持者だからと言って

その人の気持ちや思想を完全に理解しているわけでもなかったりするんだよね~……。

 

と大変リアルに思え

 また

群像劇として非常に面白く感じる所でもあります。

 

 

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これはエンタメ小説なので

史実とは異なっている部分もちょいちょいあるのですが

 

島津斉彬の子供たちが11人の内8人

幼くして亡くなっている事

(しかも6人もいた男子が全滅)

 

「呪いでもかけられているのでは?」

と人々が怪しんでいた事

 

そして

斉彬派の武士が隠密を使って調べた所

西陣織の人形を斉彬と子供たちになぞらえて呪っていたらしい事実が見つかった事

 

などは

どうやら

本当にあった事らしいです。

(ビックリしちゃいますね)

 

また

島津斉彬という人が大変な名君であった

というのも事実なのですが

 

この物語では終盤に近付けば近づくほど

当初、なんとなく影の薄かった彼の

本当のスケールの大きさがわかるようになっています。

 

お家騒動も武士道も

若い下級武士たちが抱きはじめる倒幕の志すらも

 

決して他人を恨むことのない斉彬の

太陽のような仁愛にくらべれば

所詮は小さいものに過ぎなかったのかもしれないな……。

 

読み終えた後に

私はそんな風に感じました。

 

 

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