TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

島崎藤村の「若菜集」から、「鶏」という詩をご紹介いたします。

 以前、島崎藤村の詩のご紹介記事を書いた時に

 

「この詩が、ものすごくドラマチックで良いんですよぉぉ~!」

 

と言っておススメしたものの

ブログに引用して載せるにはちょっと長すぎるかなあ?

と思ったため

タイトルだけのご紹介になってしまっていた

 

 「鶏」という詩

を、今回はここでご紹介したいと思います。

 

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この詩は島崎藤村

1897(明治30)年

25歳の時に出した抒情詩集

若菜集に収録されております。

 

 

藤村詩集 (新潮文庫)

藤村詩集 (新潮文庫)

  • 作者:島崎 藤村
  • 発売日: 1968/02/13
  • メディア: 文庫
 

 

鶏(にはとり)

 

花によりそふ鶏の

夫(つま)よ妻鳥(めどり)よ燕子花(かきつばた)

いづれあやめとわきがたく

さも似つかしき風情あり

 

姿やさしき牝鶏の

かたちを恥づるこゝろして

花に隠るゝありさまに

品かはりたる夫鳥(つまどり)や

 

雄々しくたけき雄鶏の

とさかの色も艶(つや)にして

黄なる口嘴(くちばし)脚(あし)蹴爪(けづめ)

尾はしだり尾のながながし

 

問ふても見まし誰(た)がために

よそほひありく夫鳥(つまどり)よ

妻守(も)るためのかざりにと

いひたげなるぞいぢらしき

 

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画にこそかけれ花鳥(はなとり)の

それにも通ふ一つがひ

霜に侘寝(わびね)の朝ぼらけ

雨に入日の夕まぐれ

 

空に一つの明星の

闇(やみ)行く水に動くとき

日を迎へんと鶏の

夜の使(つかひ)を音(ね)にぞ鳴く

 

露けき朝の明けて行く

空のながめを誰(たれ)か知る

燃ゆるがごとき紅の

雲のゆくへを誰か知る

 

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闇もこれより隣なる

声ふりあげて鳴くときは

人の長眠(ねむり)のみなめざめ

夜は日に通ふ夢まくら

 

明けはなれたり夜はすでに

いざ妻鳥と巣を出(い)でて

餌(ゑ)をあさらんと野に行けば

あなあやにくのものを見き

 

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見しらぬ鶏の音(ね)も高に

あしたの空に鳴き渡り

草かき分けて来るはなぞ

妻恋ふらしや妻鳥を

 

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ねたしや露に羽ぬれて

朝日にうつる影見れば

雄鶏(をどり)に惜しき白妙(しろたへ)の

雪をあざむくばかりなり

 

力あるらし声たけき

敵(かたき)のさまを懼(おそ)れてか

声色(いろ)あるさまに羞(は)ぢてかや

妻鳥は花に隠れけり

 

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かくと見るより堪へかねて

背をや高めし夫鳥(つまどり)は

羽がきも荒く飛び走り

蹴爪に土をかき狂ふ

 

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筆毛のさきも逆立ちて

血潮にまじる眼のひかり

二つの鶏のすがたこそ

是おそろしき風情なれ

 

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妻鳥(めどり)は花を馳け出でて

争闘(あらそひ)分くるひまもなみ

たがひに蹴合う蹴爪には

火焔(ほのほ)もちるとうたがはる

 

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蹴るや左眼(さがん)の的それて

羽に血しほの夫鳥(つまどり)は

敵の右眼(うがん)をめざしつゝ

爪も折れよと蹴返しぬ

 

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蹴られて落つるくれなゐの

血潮の花も地に染みて

二つの鶏(とり)の目もくるひ

たがひにひるむ風情なし

 

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そこに声あり涙あり

争ひ狂ふ四つの羽

血潮(のり)に滑りし夫鳥の

あな仆(たふ)れけん声高し

 

一声高く悲鳴して

あとに仆るゝ夫鳥の

羽は血潮の朱(あけ)に染み

あたりにさける花紅(あか)し

 

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あゝあゝ熱き涙かな

あるに甲斐なき妻鳥は

せめて一声鳴けかしと

屍(かばね)に嘆くさまあはれ

 

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なにとは知らぬかなしみの

いつか恐怖(おそれ)と変りきて

思ひ乱れて音(ね)をのみぞ

鳴くや妻鳥(めどり)の心なく

 

我を恋ふらし音(ね)にたてて

姿も色もなつかしき

花のかたちと思ひきや

かなしき敵とならんとは

 

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花にもつるゝ蝶あるを

鳥に縁(えにし)のなからめや

おそろしきかな其(そ)の心

なつかしきかな其の情

 

紅(あけ)に染みたる草見れば

鳥の命のもろきかな

火よりも燃ゆる恋見れば

敵のこゝろのうれしやな

 

見よ動きゆく大空の

照る日も雲に薄らぎて

花に色なく風吹けば

野はさびしくも変りけり

 

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かなしこひしの夫鳥の

冷えまさりゆく其(その)姿

たよりと思ふ一ふしの

いづれ妻鳥の身の末ぞ

 

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恐怖(おそれ)を抱く母と子が

よりそふごとくかの敵に

なにとはなしに身をよする

妻鳥のこゝろあはれなれ

 

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あないたましのながめかな

さきの楽しき花ちりて

空色暗く一彩毛(ひとはけ)の

雲にかなしき野のけしき

 

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行きてかへらぬ鳥はいざ

夫(つま)か妻鳥か燕子花(かきつばた)

いづれあやめを踏み分けて

野末を帰る二羽の鶏(とり)

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 -------

 

あぁぁ…………

 

夫鶏があまりにも不憫過ぎて

思わず泣けて来てしまいます……。

(´;ω;`)

 

ニワトリ達のお話とはいいながら

騎士物語さながらに

ドラマチック&ロマンチックですよね!

 

 

 

 

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こちらは私の本になります。よろしくお願いいたします。



 

台風スウェル

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