TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

織田作之助「夫婦善哉」~恋は「惚れた方が負け」なんですかねえ……。

今回は

終戦直後に無頼派として一躍脚光を浴び

流行作家として活躍中に、34歳の若さで亡くなってしまった

織田作之助(1913-1947)が

戦前に発表した出世作

夫婦善哉」(めおとぜんざい)(1940年発表)

のご紹介をいたします。

 

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金遣いの荒いボンボン育ちのグータラ亭主

気の強いシッカリ女房

 

情けなくも愛おしい、笑って泣かせる愛情物語は

発表当時から今に至るまで、大変に根強い人気があり

 

1955年森繁久彌淡島千景主演で映画化された以外にも

 

舞台やテレビドラマなどで、何度も取り上げられてきています。

 

夫婦善哉 [DVD]

夫婦善哉 [DVD]

  • 発売日: 2005/02/25
  • メディア: DVD
 

 

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内容

 

天婦羅屋の種吉とお辰の一人娘、蝶子は17歳にして自ら望んで芸者になった。

お転婆で声自慢で

「どんなお座敷でも思い切り声を張り上げて咽喉や額に筋を立て、襖紙がふるえるという浅ましい唄い方」をする彼女は

陽気な座敷には無くてはならない、売れっ子芸者になっていった。

 

そんな彼女が、やがて、10歳以上も年上の、妻子ある安化粧品問屋の若旦那、維康柳吉とわりない仲になってしまった。

 

「安くて美味い物」に詳しい食通の柳吉は、蝶子をしばしば「うまいもん屋」に連れて行ってくれる。

彼が喋る時にどもる癖なども、蝶子の目には、なんだか思慮ありげに見えた。

まさに恋は盲目。

彼女はすっかり柳吉の事を「しっかりした頼もしい男」だと思い込んでしまった。

 

ところが。

そんな二人の密かな交際が、中風で寝たきりの柳吉の父、頑固一徹の大旦那にバレてしまったから大変だ。

柳吉は勘当され、妻は幼い娘を柳吉の妹に託し、籍を抜いて実家に帰ってしまった。

 

しょげ返っていた柳吉だが、東京に取引先の未回収の集金があった事を思い出した途端に、パッと心が晴れた。

彼は早速、蝶子を呼び出してこう言った

「物は相談やが、駈け落ちせえへんか?」

 

東京で集金をして回り、まとまった金を集めると、二人で熱海へ行き、芸者をあげてどんちゃん騒ぎ。

ところがいきなり関東大震災に襲われてしまい、二人は避難列車で大阪に戻ったのだった。

 

その後、二人は夫婦となったのだが、柳吉はいずれ親の勘当が解けるだろうことを当てにして、ほとんど働かない。

そこで蝶子が、臨時雇いの女中兼芸者である「ヤトナ芸者」として、稼ぎに出ることになった。

 

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いつまで経っても、柳吉の勘当は解けなかった。

そればかりか、彼の病父が蝶子の事を悪しざまに言っている事なども(柳吉の口から)蝶子の耳に入って来た。

 

「無理おまへん」

としんみり思いながら胸を痛める蝶子は、肚の中で彼の父に向かって呟いた。

「私の力で柳吉を一人前にしてみせまっさかい、心配しなはんな」

 

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そんな蝶子の決意をよそに、その後の二人の結婚生活では

 

彼女がせっせと貯めたお金を、柳吉は下らない事でパーッと散財してしまい

それにもめげずに蝶子が頑張って稼いできては、またまた柳吉が使ってしまい……

という事態が繰り返されてしまいます。

 

お金って、稼いだり貯めたりするのは大変だけど

使って失くしてしまうのは一瞬ですからねぇ……。

 

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「このアホンダラ~!!」「おばはん、何すんねん、無茶しーな」

 

こうなったら柳吉にも働いてもらおうと蝶子は思案して

色々と商売を始めてみたりもするのですが

これもことごとく、柳吉のせいで、長続きができません。

 

 

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とまあ、こんな話であるにも関わらず

重たく暗い調子にはならず、ユーモアと温かさまで感じられるのは


蝶子が、こんなに甲斐性無しの柳吉に

ぞっこん惚れ抜いてしまっているからなんでしょうねえ。

 

そうは言っても

 

蝶子は大人しく耐える女などではなく

気が強くて、怒るべき時にはちゃんと大爆発しています。

 (夫婦の間の鬱憤は、溜め込まないのがgood👍ですね)

 

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蝶子が柳吉に振り回されて

精神的にも経済的にも苦しんでいる事は確かなのですが

 

この状態が「やらされて、仕方なしにやっている」というわけではなく

彼女が主体的に

「やりたくてやっている」という所に

 

なんでそんなに、

自ら好んで泥濘を行くの~!?(T_T)

 

という、ダメ男にのめり込んでいる女友達を諫めたくなるような

そんな気持ちは抱くのですが

 

それと同時に

ある種の清々しさを感じたりもします。

 

さて、一方

 

蝶子に対して

かなりヒドイ仕打ちをしているにも関わらず

おっとり大人しく見えるために、周囲の人から

「気の強い奥さんにガンガンやられて可哀想」

などと同情されている柳吉。(ズルい~)

 

彼が蝶子の甲斐性について

どう思っているかというと

 

何かにつけて蝶子は自分の甲斐性の上にどっかりと腰を据えると、柳吉はわが身に甲斐性がないだけに、その点がほとほと虫好かなかったのだ。

しかし、その甲斐性を散々利用して来た手前、柳吉には言いかえす言葉はなかった。

興ざめた顔で、蝶子の詰問を大人しく聴いた。

 

酷い~。(ToT)

(10コ以上も年下の女房にドヤ顔されるのが癪に障るんですね)

 

 

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「どやっ!!!!」

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「ふーん・・・」



ノホホンとした柳吉は、熱情型の蝶子に比べると、愛情表現がかなり淡泊なので

彼女が一人で空回りしているように見えてしまい

なんだか気の毒になってしまいます。

 

でも、蝶子自身がそんな柳吉を好きだって言うんだから

仕方が無いんですよねえ……。

 

 

柳吉は、世間の一般的物差しで測られれば

紛れもなく「ロクデナシ」の部類に入れられてしまう人なんですが

 

人と人との、情を介しての繋がりにおいては、そういう「世間的な物差し」って

実は、あんまり関係ないんですよね。

 

立派な人だからって、必ずしも愛されるとは限らないし

いっぱいダメな所があるからといって

愛されない、ってわけでは決してない。

 

(どうかすると、そのダメさ加減が却って魅力になっちゃう、なんてこともありますしねぇ)

 

蝶子はチャーミングなものだから、近所のお金持ちから

「妾になれ」

なんて言われたり、材木屋の息子からモーションを掛けられたりもしているんですが

それでも柳吉一筋なんです。

 

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あんまり報われる事なく、気の毒な蝶子……。

 

でも、そんな彼女の頑張りを

彼女の両親が近くで見守ってくれています。

 

特に父、種吉の優しさは、彼女にとって大きな救いとなっているような気がします。

 

 

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この夫婦善哉という作品は

昭和15年4月織田作之助26歳の時に同人雑誌「海風」に発表され

改造社の第1回文芸推薦作品に推されたのちに「文芸」7月号に再掲載され

 

彼が職業作家としてデビューを果たすきっかけとなった作品です。

 

 

モデルとなったのは、作之助の次姉の千代とその夫の山市乕次(とらじ)夫婦だという事です。

道理で、夫婦を見つめる目に、なんだかがあるような気がしました。(^^)

 

 ところで

蝶子と柳吉夫婦の

今後の行く末が気になるところですが

 

なんと!

 

作之助の亡くなった年から60年も経った2007年

続編となる

「続夫婦善哉

が発見されています!

 

(改造社の雑誌に掲載される予定だった原稿が、編集部の自主規制で、お蔵入りになってしまっていたものと思われるそうです)

 

続編は別府が舞台となっています。

そのうち、今までの話に続編を加えた長編物語として、映画やドラマが作られるかもしれませんね。

 

 

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この小説を象徴するような

ラスト近くに描かれた名場面

 

柳吉が蝶子を

「どや、なんぞ、う、う、うまいもん食いにいこか」

と、誘って入った「めおとぜんざい」の店

「法善寺 夫婦善哉は、今も大阪の法善寺横丁にあります。

 

一人分が二杯のお椀で出て来る、この一風変わったぜんざいは

カップルで食べると円満になれるという縁起物」

らしいですよ。(#^^#)

 

 

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夫婦善哉

夫婦善哉

 

 

 

 

 

 

こちらは私の本になります。よろしくお願いいたします。

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台風スウェル

台風スウェル

 



 

 

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