今回はフランスの作家
ジュール・ヴェルヌ(1828-1906)の冒険小説
「八十日間世界一周」
のご紹介をいたします。
ジュール・ヴェルヌといえば
「海底二万里」
「十五少年漂流記」
といったあたりを少年少女時代に読んで、心躍らせた方も多いのではないでしょうか。
100年以上も昔の人でありながら
今なお多くの人に読み継がれているという
時代や国境を超越した
人気作家ですよね!
「気球に乗って五週間」
「地底旅行」
「月世界旅行」
などの冒険小説、科学小説を数多く手掛け
今日では
イギリスの作家で「タイム・マシン」を書いたハーバート・ジョージ・ウェルズと並んで
「SFの父」
とも呼ばれています。
この「八十日間世界一周」は
ジュール・ヴェルヌが45歳の時の作。
1956年に
ハリウッドで制作された映画の
ロマンチックで雄大なテーマ音楽はとっても有名なので
聞き覚えのある方も多い事と思います。
こちら映画版「八十日間世界一周」
第29回アカデミー作品賞を受賞しています。
内容
ネタバレを回避しつつザックリ説明いたしますと
次のようになります。
物語はイギリスのロンドンから始まります───
謎多き紳士フィリアス・フォッグ卿は、几帳面で生真面目な変人として知られていました。
終始淡々とした性格の彼が、唯一夢中になる趣味はホイストというカードゲームです。
紳士達の社交場「革新クラブ」で、仲間達とホイスト勝負をしている間に、こんな雑談が始まりました。
「いくら汽車や汽船が出来て便利な時代になったとはいえ、世界一周にはやっぱり三か月位はかかるよね」
それに対してフィリアス・フォッグ卿が言いました。
「いや、たった八十日でできるよ」
「しかし予期せぬアクシデントがあったらそうもいくまいて」
「いや、そんな一切合切含めてもさ」
「いやいや実際の所無理だろう」
「いや実際の所、可能さ」
フォッグ卿の言い方があまりにも確信的かつ断言的だったため、仲間たちが言いました。
「それなら実際にやってみてもらいたいものだね。我々は不可能だって方に四千ポンド賭けるよ」
「よろしい。それならぼくは可能だと言う方に二万ポンド賭けよう。今すぐにでもそれを引き受けてやる」
こうしてホイスト中の雑談からの成り行きで
フィリアス・フォッグ卿は紳士仲間達を向こうに回し
八十日間で世界一周ができるかどうか
賭けをすることになったのです。
時は1872年
(その頃、日本は明治5年)
ハドソン川に浮かべた蒸気船クラーモント号に乗客を乗せ
試運転を成功させた年(1807年)から65年目
世界初の鉄道
ストックトン&ダーリントン鉄道(イギリス)が開業(1825年)してから47年目のことでした。
ちなみに
世界初の気球による有人飛行は
フランスのモンゴルフィエ兄弟によって1783年
世界初の飛行機による有人飛行は
(なので、この時代にはまだ飛行機だけは無いんですね)
「革新クラブ」から帰って来るなり
さっそく旅立ったフィリアス・フォッグ卿。
彼にお供として付いていくのは
雇われたばかりのフランス人青年
パスパルトゥー
(快活・お調子者・人情家・運動神経バツグン)
船や列車の乗り継ぎのため
一分一秒をも惜しむ
効率最優先の弾丸旅行です。
ところが
彼らは旅の障害ともなりうる意外な人物に
ずっとつけ狙われ続けていました。
イギリス警察の
フィックス刑事(職務に忠実・粘り強い性格)です。
実は彼らが旅立つ少し前に
ロンドンの銀行から大金が盗まれるという未解決事件があり
フィックス刑事は
謎多き紳士フィリアス・フォッグ卿こそが怪しいと睨んでいたのです。
そんなこんながありながら
旅を続ける彼らの元に
途中から
ひょんな経緯があって
チャーミングな若い美女
アウーダ夫人が旅の仲間として加わります。
こうして
それぞれの人物が
それぞれに対して色んな感情を交錯させながら
彼らの旅は続いていきます。
(ただしポーカーフェイスで超マイペースな変人、フィリアス・フォッグ卿だけは、誰にも感情が測れないという状態)
果たして本当に
八十日で世界一周を達成し、ロンドンに戻ることが出来るのか!?
(もし出来なかったら、賭けに負けたフィリアス・フォッグ卿は破産)
そしてまた
我らが主人公フィリアス・フォッグ卿は
銀行の盗難事件と関係しているのでしょうか……?
イギリスのロンドンから
インドの
中国の
香港、上海を経て
江戸から明治になったばかりの日本
横浜にも立ち寄り
太平洋を渡って
アメリカへ ───
どんなに絶体絶命の窮地に陥っても
決して冷静沈着さを失わないフィリアス・フォッグ卿や
陽気で正直な熱血漢パスパルトゥーをはじめ
このお話は
登場人物がみんな個性的で魅力的。
息もつかせぬ冒険シーンの連続にハラハラドキドキし
かと思うと
心にジーンと沁みて来るような場面もあったりして
まさに
エンターテインメント小説の王道
って感じです。
まるで
餡子のギッシリ詰まった鯛焼きのように
頭の先から尻尾まで
全ての部分が
面白い!
すっかりハートを持っていかれてしまいました。
こういうお話、大好きです!
小説書きの端くれの、そのまた端くれみたいな私ですが
「こんな話が書けたらいいなあ……」
と心底憧れてしまいます。
ただ面白いばかりではなく
小粋で痛快でロマンチック
一生の間に一作でも
これ級の作品が書けたとしたら本望でしょうね……。
(さすがジュール・ヴェルヌは偉大です!)
お次にご紹介するYouTubeは
映画版「八十日間世界一周」の
テーマ音楽(ヴィクター・ヤング作曲、ヴィクター・ヤングオーケストラ演奏)に合わせて
世界各地の名所・絶景をめぐる
というものです。
旅情や憧れをかき立てられる
うっとりしてしまうほどの名曲ですよねえ。
ジュール・ヴェルヌがこの物語を世に生み出してから
80年以上も後になって作品が映画化され
その映画(名画)に合わせて作られた音楽が
70年近く経った今なお
人々の心を震わせ続ける名曲で……
元をたどれば
たった一人の頭の中に浮かんだ空想から
これだけ次々に感動のバトンが渡され
素敵なものがどんどん再生産されていくのですから
名作が持つ影響力って
本当に素晴らしいですね!
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こちらも偏屈イギリス紳士の旅行譚 スウィフト「ガリヴァ旅行記」
こちらは私の本になります。よろしくお願いいたします。