読売新聞朝刊紙上で連載されていた
川上未映子さんの「黄色い家」が先日、完結しました。
毎日、ハラハラドキドキ、固唾を飲みながら楽しみに読んでおりましたので
終わってしまった今、なんだか虚脱感のようなものがあります。
物語は
主人公である花の語りで綴られています。
ある日の事
彼女は数十年間音信不通であった年上の知人・黄美子さんが
「自宅に若い女性を監禁していた」
という容疑で逮捕された───
そんな事件報道を目にして、激しく動揺します。
そこから回想される
二十数年前の日々───
水商売のシングルマザーの元で、半ば放置気味に育てられていた幼い頃の花は
ある日突然目の前に現れた謎の中年女性・黄美子さんに優しくしてもらい
生まれて初めて、やすらぎのようなものを感じられるようになりました。
その後すっかり黄美子さんに懐いた花は
色々な経緯があって、彼女と一緒に暮らすことになるのですが
そこで一体、どんな事があったのか?
黄美子さんは、一体どういう人だったのか?
後年、彼女が監禁容疑で逮捕されるという事がわかっているだけに
そのあたりへの興味が非常に大きな吸引力となって
思わず知らず、物語世界にグイグイと引き込こまれてしまいます。
連載中は、とにかく
この後、一体どうなるの!?
というのが
毎日、気になって仕方がありませんでした。(^^;)
まるで自分が花と同一化したかのように
彼女と一緒に悲しくなったり、嬉しくなったり、不安になったり。
川上未映子さんは
感情描写と言うか心理描写と言うか
心を描くのが恐ろしいほど巧い!
人間心理の、ものっすご〜く深い所まで突っ込んで、鋭くグリグリ抉り込んでくるような花の独白には、凄絶なものがありました。
ひしひしと迫る心理描写
作品世界のリアルな空気感
───といったあたりもすごいんですけど
物語の内容的にも
色々とあれこれ思いを巡らせたくなってしまうような
大変に深みのある素晴らしい作品でした!
花が体験していく事の中には
かなり犯罪臭の強い、異常な事があったりもするのですが
その時々の彼女の心境自体は
私たちが普段、友達や仕事に対して思っているようなものに、すごく近かったりして
「ああ、わかるよ。その気持ち!」
なんて思っちゃうのが、なんだか不思議。
なんて言うか……
「普通の事」と「異常な事」って
意外と境界線があいまいなんだなあ……と感じたりもして。
一歩間違えば、犯罪方面の深みにどっぷり落ちてしまったり、凄惨な事態が引き起こされることになりかねないんだけれども
ギリギリの所で、かろうじて「普通の人」の括りに留まっている───
精神的や環境的に
そういう所にいる人って
実はものすごく多いのかも知れませんね……。
(パッと見にはわからないだけで)
花から見た黄美子さんの印象は
年月とともに微妙に変化していきます。
また
他の人から見た黄美子さん像も
花が感じるのとは若干違うものだったり……
確かに
人物像って、関わる人や、関わり方いかんによって、全く印象が変わってきますよね。
───そんな風に考えると
事件だとか物事の真相
なんていう物は
関わった人の数だけ、それぞれに違う真実があり
第三者には、容易に掴み得ない物なのかもしれませんね……。
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