「遠野物語」には幽霊だけではなく
天狗や座敷童、雪女なども語られているのですが
中でも有名なのが
河童の話です。
そこで今回は
「遠野物語」に語られている河童のお話
をご紹介しようと思います。
一般的に思われている河童の顔色は緑色ですが
遠野の河童は赤い顔をしている
─── という事です。
彼らが特に多く住んでいるのは
猿が石川で
「遠野物語」が著された明治の頃には
岸の砂の上に河童の足跡がたくさん見られたそうですよ。
(雨の日の翌日には特にたくさん)
その足跡は
猿の足のように親指が離れていて
人間の掌の跡によく似ているらしいです。
(水かきについての記述は無いので
足には水かきが無いのかなあ……?)
長さは三寸足らず (9㎝弱位)
もし、これが子供の河童のものだったとしても
人間に比べると
かなり小さな足をしていますね……。
ひいお婆さんが子供の時
自宅の庭先の胡桃の木の間に
真っ赤な顔をした男の子がいるのを目撃した事があるそうです。
河童って
やんちゃ坊主みたいな男の子ってイメージがありますよね。
ところが
遠野の河童には大人の男性河童もいたらしく
しかも意外と
女性受けが良かったみたいですよ!
村会議員をしたほどの豪家の士族の家で
母と娘が二代にわたって
河童と恋の火遊びをし
(しかも不倫!)
その果てに
河童の子供を産み落とした
なんていう話や
上郷村の何某さんの家でも
娘さんが
河童との間に子をなした
なんて話が書かれています。
河童と娘さんとの逢瀬のシーンでは
娘さんは嬉しそうに笑っていたりしているので
河童氏は
かなりの恋愛上手だと思われます。
ただ
生まれた河童ベビーは実に可哀そうなことに
「その形きわめて醜怪」
「身内まっ赤にして口大きく、まことにいやな子なりき」
などと言われ
士族の家では切り刻まれた挙句に一升樽に入れられ
土中深く埋められてしまい (酷い……)
上郷村の家のほうでは
道端に捨てようと置き去りにされかかったものの
「勿体ないな、見世物に売ったなら金になるのに」(ひえぇぇぇ~)
─── と思い返して戻ってみたら
もうどこかへ消えてしまっていたんだそうです。
(河童父が川に連れ帰って育てることにしたのでしょうか。
見世物にされちゃうよりは、ずっと良いですよね……)
そんな風に
人から愛されたり憎まれたりしている河童さんが
ある時
人間に捕まってしまうという大失態
をやらかしてしまったことがありました。
それが
これからご紹介するお話です。
------
「遠野物語」第58話
河童が捕まえられた話
小烏瀬(こがらせ)川の
姥子(をばこ)淵のほとりには
新屋の家がある。
ある日
この家の使用人である子供が
淵へ馬を冷やしに行った。
馬を冷やしている間
子供がほかに遊びに行ってしまった隙を見て
河童がその馬を
淵の中に引きずり込もうとした。
けれども
馬の力には到底及ばない。
河童はかえって馬に引きずられ
屋敷の厩の前にまで
連れてこられてしまった。
「これはマズい!」
そう思った河童は
咄嗟に馬槽(うまぶね~飼い葉桶)を伏せて
その中に身を隠した。
家の者がやってきて
「何でこの馬槽は伏せてあるんだべ?」
怪しみながらそれを少し開けてみた所
下から河童の手が現れた。
「!」
やがて
ここに村中の者が集まって来た。
「殺すべ!」
という者あり
「いんや~、許してやるべぇ」
という者あり。
侃々諤々の評議の結果
最終的に
「今後、村中の馬に悪戯はしません」
という固い約束をさせ
河童は解放されたのだった。
─── 今
その河童は村を去り
相沢の滝の淵に住んでいるらしい。
(おわり)
「もう二度と悪さをしない」
という固い約束をしたのは良いんですが
それって
「馬に対してだけ」……?
ちょっとモヤモヤしてしまいます……。(^^;)
「遠野物語」の続編
「遠野物語拾遺」の第178話には
これとほとんど同じ内容の話が
「橋野の沢檜川の川下にある五郎兵衛淵」
「近くに住む大家」
と舞台を代えたかたちで収録されています。
そちらの河童は
「もうこんな悪戯はしないので許してください」
と詫びた上に
証文まで書き残して行ったそうで
その河童の詫び証文は当時その家に現存していたそうです。
学校に通ったわけでもないのに
字が書けるなんて
河童って意外と
インテリなんですね。
(その割には、やってる事が
しょーもなく下らない事ばかりのような気がしますが……)
関連記事のご案内
人魚には今「職業人魚」がいるらしいです。それなら河童にも……
「遠野物語」と江戸時代の不思議話集「耳嚢」にあった幽霊話を二つ。
「遠野物語拾遺」から、ファンタジックでホラーな猫の話。
こちらは私の小説です。よろしくお願いいたします。