TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説やイラストかいてます。よろしくお願いします。

「平仲物語」のご紹介〜在原業平と並び称される平安時代の色男☆平貞文

今回は

平安時代を代表する色男のうちの一人

平貞文を主人公とした恋の歌物語集

「平仲物語」

のご紹介をいたします。

 

 

平安文学を代表する色男と言いますと、まず

源氏物語の主人公・光源氏

伊勢物語の主人公・在原業平

あたりが超有名どころではありますが

 

こちら「平仲物語」の主人公

平貞文(たいらのさだふみ/さだふん)(872-923)

いささか影は薄いながらも

結構知られた存在だったりします。

 

通称「平仲(へいちゅう/へいぢゅう)」こと

平貞文

平安時代中期に実在した歌人

 

桓武天皇の第12皇子・仲野親王の子、茂世王(しげよおう)を父とする

平好風(よしかぜ)の息子です。

 

お父さんの好風は

元々は皇族でしたので好風王(よしかぜおう)と名乗っていましたが

貞観16(874)年清和天皇の御代に

幼少の息子・貞文と一緒に臣籍降下して

平姓を賜りました。

 

かの有名な伝説的プレイボーイ

在原業平(825-880)と比べると

彼は50近く歳下になるのですが

 

貞文が幼児の頃まで、業平は存命していたようなので

ギリギリ同時代人

と言っても良いのではないでしょうか。

 

貞文と仲の良い友人達としては

古今和歌集の撰者をした

紀友則凡河内躬恒らがおります。

 

 

ところで

 

平貞文はどうして

「平中(仲)」

と呼ばれるんでしょうね?

 

これに関しましては

 

色好みの先輩・在原業平

在原氏の五男の中将だった事から

「在五中将」略して「在中」と呼ばれたのになぞらえて

「平中(仲)」と仇名をつけられた

という説があったり

 

平好風息子三人のうち

真ん中の子だったため

「平中(仲)」と呼ばれた

という説があったり

 

その他にもいろんな説があったりして

 

どうして彼が「平中(仲)」と呼ばれるのかに関しては

今も色々と議論されているところのようです。

 

この平仲さん

 

実は芥川龍之介の短編

「好色」の主人公

としても有名だったりするんですよ!

「平仲といえば、やはり何と言っても、女のウ〇コを強奪した話でしょうな!」

 

この「好色」というお話は

今昔物語集の中におさめられたエピソードを下敷きにしているのですが

 

魔性のプレイガールに翻弄されまくって

いささかメンタルのやられてしまった貞文が

女への恋心を無理やりにでも消してしまわねば!

────と思いつめるあまり

彼女の携帯トイレを盗んで

中の排泄物を見てやろうとしてしまうお話

 

今昔物語集」の中でも

まんまその通りの話として収録されています。

 


ロマンチックで情熱的な在原業平伊勢物語にくらべると

我らが平仲さんの「平仲物語」

 

めちゃモテ女流歌人・伊勢さんに、手玉に取られて翻弄されたり……

 

気合の入った長歌を送ったにも関わらず、女性からまるっきり無視されたり……

 

「死んじゃいそうな程ひどい病気をしているよ」とアピールしてみたのに、女性からまるっきり無視されたり……

 

な~んか、うまくいかない

ほろ苦い恋の割合がやたら多いんですよねえ。

 

そんなこともあって

国文学者の目加田さくをさん(1917-2010)は

講談社学術文庫刊の「平仲物語」のまえがきでこれを

「敗北者の文芸」と評しています。

 

全40段ある話の中で

ハッピーエンドの恋はたったの7段

対して

気まずい恋の話は

その3倍の24段もあるという……。

「平仲、本当にモテ男だったん……?」

 

そんな「平仲物語」から

ひとつ

お話をご紹介いたします。

(※私なりの超意訳です。逐語訳ではありません)

 

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第39段「市に出であひしひと」

 

 

あるとき、平仲が市場に行ったところ

牛車に乗った国司の娘に一目ぼれしてしまった。

言葉や歌を交わして恋仲になり、

やがて、二人は結ばれた。

 

ところが、どういうわけか

平仲は女の屋敷から帰った後、後朝(きぬぎぬ)の文も寄越さないし

そればかりか、次の夜も訪れて来なかった。

(※恋人同士になったら、すぐに「後朝の文」と言うラブレターを送ってよこすのが当時の常識にもかかわらず)

 

「うちのお姫様が、よりにもよって、あんな有名な浮気男と恋仲になるなんて。案の定、手紙も寄越さず、来ることも無く、使いの物を寄越しもしないよ……」

 

召使たちは、自分の所の姫様が平仲とそんな仲になってしまったことに、口々に愚痴をこぼし合っていた。

女自身、内心密かにそんな風に感じてもいたので

「……悔しい…」

と、くよくよ思い悩んでいるうちに、いつしか四五日ほども経ってしまった。

彼女は食欲もすっかり失せて、シクシクと泣いてばかりいる。

 

「そんなに思い詰めないでくださいよ。今回の件は世間には内緒にして、これから別の、良い人との出会いをお求めになれば良いことですよ」

 

人々はそう言って慰めるが、

女はついに部屋にひきこもってしまった。

 

彼女はしばらく、自慢の長く美しい黒髪をかきなでかきなで、していたが

突如

ハサミを手にしたかと思うと、髪をジョキジョキ断ち切って、尼髪(※長めのおかっぱ髪)にしてしまった。

 

召使たちは皆、驚き嘆く。

しかし、もう、後の祭り……。

 

 

一方、平仲の方はその間

一体何をしていたのかというと

 

実は彼は、彼女の事を忘れたわけでも、軽く考えていたわけでもなかった。

 

仕事上どうしようもなく、

彼女に会いに行く事はおろか、連絡をやることすら出来ない事情があったのだ。

 

後朝(きぬぎぬ)の文だって、ちゃんと寄越そうとしていたのだが

ちょうど折悪しく、上司が急に

「出かけるぞ!」と言い出し、共に連れていかれてしまい

その上、なかなか帰してもらえなかったのだ。

 

ようやく解放されて、屋敷に帰るという道すがら

今度は、亭子院(宇多院)からのお召の使いにつかまってしまった。

 

そこで院に参上したところ

今度は院が

「大堰(おおい)川まで遊びに行くぞ!」

と言うので

そのお供としてついて行かなくてはならなくなった。

 

そこで滞在した二、三日の間というものは……

すっかり酔っぱらってしまって、ぜんぜん記憶がない……。

そうこうした後の夜更方

ようやく院がお帰りになるというので、お供していこうとした所

ちょうどそのころから

 

京の方角は方蓋がり(縁起が悪い)……という事になってしまい

 

一行の人々は皆、ゾロゾロと方違えのために

帰宅のための最短ルートをはずして、あえて一旦まるで別の方角へと出かけなくてはならない羽目となった。

 

「あぁぁ、こんな事をしている間に、彼女はどんな風に思っているだろう……」

 

さすがに平仲も不安になってきてしまい、夜、彼女に手紙を書いていると

女の元から使用人が訪ねてやって来た。

 

「姫様からお手紙です」

 

使用人から渡された文を開いてみると

中には、なんと

────断ち切られた黒髪がはいっていた。

 

 

「!」

不安に胸をザワつかせながら、手紙を読むと……彼女からの手紙には、こうあった。

 

 

あまの川 空なるものと ききしかど
わが目の前の涙なりけり

 

天の川って

空にあるものとばかり聞いていましたが

私が流す涙の川が

実はそうだったのですね……

 

(よもや私が尼になるなんて

かつては思いもしませんでしたわ

もう、悲しくて悲しくて……)

 

 

「なに、尼になるだって!?」

 

衝撃のあまり眩暈がするような思いにとらわれつつ、

平仲は返事の歌を詠んだ。

 

よをわぶる 涙流れて はやくとも

あまのかわには さやはなるべき

 

私たちの仲を憂いて流す

あなたの涙川がどんなに急流だとしても

そんなにすぐに天の川になんか

なって良いものですか

 

(早まっちゃ駄目だ!尼さんになんて、ならないでおくれ!)

 

 

夜になり

平仲が女の所へ行ってみると────

 

女はすでに

尼姿になってしまっていましたとさ……。

 

……あ~あ、残念。

 

(おしまい)

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こちらのお話は

同時代に成立したと思われる

「大和物語」にも収録されています。

 

きっと世間を騒がせるような、有名なスキャンダルだったんでしょうねぇ……。(^^;)

 

「平仲物語」の成立

960年~970年あたりの10世紀後半

伊勢物語」の成立より後で

源氏物語」の成立よりは前と思われ

 

貞文の家集平貞文集」を下敷きとして

彼自身がまとめたのではないかと考えられています。

 

 

書名は

「平仲物語」のほかに

「平中日記」とか

「貞文日記」

などとも呼ばれているようです。

 

 

 

 

 

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