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戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

かつて栄えたあの場所も今ではもう幻…哀愁を誘う漢詩「黍離(しょり)」のご紹介。

漢詩っていうと、難しそうで

言い回しも

「ワレ」だの

「イワンヤ」だのと

やたら堅苦しかったりして

なんだか取っ付きにくいと思われてしまいがちですが

 

数百年────

────ともすると、二千年以上も昔に生きた人々の

その時々のふとした感情が、現代にそのままそっくり伝わってくるなんて

結構ロマンチックじゃありませんか?

 

ということで

今回は私が

「良いなあ……」と感じた漢詩

一つご紹介いたします。

 

 

それは

中国最古の詩集である詩経

「国風」という章の中の

「王風」というところにある

「黍離(しょり)」

という詩です。

 

 

中国の歴史の最初の方に

という国がありましたよね。

その殷の次に

周(西周)という国が天下を治めるのですが

 

その西周が衰えて都を洛陽に移し(紀元前770年のこと)

諸大名並みの勢力しか持てない

東周という国になってしまい

こうして中国は群雄割拠の春秋戦国時代へと突入していきました。

 

王風というのは

この東周に伝わる歌ということです。

 

 

※現代語訳は私の意訳です。

「黍離(しょり)」

 

 

 

彼黍離離

彼(か)の黍(しょ) 離離(りり)たり

かつての都に 

モチキビは穂を垂らし

 

彼稷之苗  

彼の稷(しょく) 之(こ)れ苗(びょう)す

ウルチキビは苗を出している

 

行邁靡靡

行き邁(ゆ)くこと靡靡(びび)たり

とぼとぼと 私は歩き

 

中心搖搖

中心(ちゅうしん) 搖搖(ようよう)たり

心はゆらゆら 揺らめいている

 

知我者

我を知る者は

私を知っている人は

 

謂我心憂

我が心 憂(うれ)うと謂(い)う

「憂いているのですね…」 

というけれど

 

不知我者  

我を知らざる者は

私を知らない人は

 

謂我何求  

我何をか求むると謂う

「何を求めて歩いているのですか?」 

というだろう

 

悠悠蒼天

悠悠たる蒼天

悠々と広がる青空よ

 

此何人哉

此れ何人(なんびと)ぞや

ここをこんな風にしてしまったのは

いったい何者なんですか

 

 

彼黍離離  

彼の黍 離離たり

モチキビは穂を垂らし

 

彼稷之穗  

彼の稷 之れ穗(ほ)いづ

ウルチキビも穂を出した

 

行邁靡靡  

行き邁くこと靡靡たり

とぼとぼと 私は歩き

 

中心如醉 

中心 醉(よ)えるが如し

心は まるで

なにかに酔っているかのよう

 

知我者   

我を知る者は

私を知っている人は

 

謂我心憂  

我が心 憂うと謂う

「心が沈むのですね…」

というけれど

 

不知我者  

我を知らざる者は

私を全然知らない人は

 

謂我何求  

我何をか求むると謂う

「何を探しているのですか?」 

というだろう

 

悠悠蒼天  

悠悠たる蒼天

悠々と広がる青空よ

 

此何人哉  

此れ何人ぞや

ここをこんな風にしてしまったのは

いったいどこの誰なんですか

 

 

彼黍離離  

彼の黍 離離たり

モチキビは穂を垂らし

 

彼稷之實  

彼の稷 之れ實(みの)れり

ウルチキビも実を付ける

 

行邁靡靡  

行き邁くこと靡靡たり

とぼとぼと 私は歩き

 

中心如噎

中心 噎(むせ)ぶが如し

胸は塞いでいくようだ

 

知我者   

我を知る者は

私を知っている人は

 

謂我心憂  

我が心 憂うと謂う

「悲しいですよね…」

というけれど

 

不知我者

我を知らざる者は

私を全然知らない人は

 

謂我何求  

我何をか求むると謂う

「何を求めているのですか?」

というだろう

 

悠悠蒼天  

悠悠たる蒼天

悠々と広がる青空よ

教えて下さい

 

此何人哉

此れ何人ぞや

ここをこんな風にしてしまったのは

いったいどこの誰なのでしょう……

 


この詩の背景をご説明いたしますと

 

落ち目になった周王室が、都をそれまでの鎬京(こうけい)から東の洛陽(洛邑)へと遷して、しばらくたった後

 

ある人が、かつて都があった鎬京の地へと赴いたところ

そこはすでに

 

都だった面影はすっかり消え失せており

一面のキビ畑となり果てていました……。

 

そんな栄枯盛衰の哀しさ

憂いて詠んだ歌だと言われています。

 

 

かつて慣れ親しんでいた光景が

いつの間にか

見る影もなく荒れ果てた廃墟と化してしまった ────

 

そういう事って

現代でも、わりと良くありますよねえ……。

 

 

思い出の場所は、

思い出の時のまま、鮮やかに

ずっと存在し続けて欲しいと願うのに 。

 

 

昔友達と遊びに行った遊園地が潰れ ────

 

家族で訪れていたショッピングセンターも、いつのまにか姿を消し ────

 

時の流れって

無情で非情。

 

 

何とも言えない

寂寥感が胸に迫ってくるような詩ですよね……。

 

 



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