TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

ハイネのロマンチックで素敵な詩のご紹介

今回は

愛と革命の抒情詩人

ハインリヒ・ハイネ(1797-1856)の詩の中から

私が特に「素敵だな」と思うものをご紹介いたします。

 

 

ハイネと言いますと

 

「♪ 春を愛する人は ~」で知られる

『四季の歌』(作詞・作曲 荒木とよひさ)

という歌の中で

愛を語るハイネのような僕の恋人」

と歌われている事から

 

なんとなく

ロマンチックな感じの詩人なんだろうな……

というイメージを抱かれている方が多いのではないか、と思いますが

 

まさしくそのとおり

とっても甘美幻想的うっとりしてしまうような作風ですので

 

メロメロにロマンチックな気分に浸りきりたい時などには

彼の詩は大変お薦めかと思います。(^_^)

 

ということで、まずは

「月空にさし登り」

「炉辺の詩」

の二篇からご紹介いたしましょう。

 

こちらの翻訳者は

詩人で文学者の片山敏彦(1898-1961)です。

 

 

月空にさし登り

 

 

月空にさし登り

波の面(も)にあまねく照れり。

われ君に寄り添いて

君とわれ心波立つ。

なつかしき腕(かいな)にもたれ

わが憩(いこ)う浜に人居ず。

「吹く風に何の聞ゆる?何ゆえに

君が白き手のかくもふるえる?」

 

「吹く風の音(おと)にはあらじ。

人魚らが波に歌えり。

わだつみに呑(の)まれて死にし

わが姉ら人魚と成りて歌えるなり」

 

 

最後のほう

「そう来るか~!」

って感じですよね……。(◎_◎;)

 

ロマンチックでありながら、もの哀しく、なんか怖い……。

いろいろと物語を空想させられるような詩です。

 

 

炉辺の詩

 

 

外には夜目に白々と雪の羽毛が飛んでいる。

はげしい風が吹いている。

だが室内は空気が乾いて

暖かくしずかな、したしい気持ち。

 

肘掛椅子に身を投げて、わたしは想いに耽っている。

ぱちぱち燃える古い炉ばた。

煮える湯のつぶやきを聴いていると

忘れていた昔の歌を、それが歌っているかのよう。

 

そして一匹の子猫が脇にすわって

足先を火で温めている。

炎が揺れるさまを見つめていると

うっとりとした気持ちになる。

 

ほのぼのと明るみながら見えてくる

遠い昔のさまざまなもののすがた、

とりどりな仮面仮装の

色褪せたきらびやかさを見せながら。

 

聡明な顔(かん)ばせの美しい婦人たちが

神秘に優しく、私に目くばせをする。

そしてそのあいだに立ち交って

道化者(アルルカン)らが陽気にはねたり笑ったり。

 

はるばるとわたしに挨拶をするギリシャの神々の大理石像。

それらの脇には夢のように

物語(メールヒェン)の花々が咲いていて、

その花びらが月の光に照らされて揺れる。

 

また、揺れて漂うて来るのは

数々の古い魔法の城、

そのうしろから馬に騎(の)って追(つ)いて来る

立派な騎士と従者たち。

 

誰も彼も急いで通過する、通過する、

まぼろしの行列───

おや! 湯が煮えこぼれたぞ、

こぼれた湯がはねて、悲鳴をあげる子猫。

 

 

 

炎を見つめながら空想している幻想世界のきらびやかさ。

そこから一転、現実世界に引き戻されるところが、可笑しくも可愛らしい詩です。

ニャンコに怪我が無かったらいいですね。(^^;)

 

 

1797年(日本は江戸時代の寛政9年)

ドイツのデュッセルドルフ

ユダヤ商人の子ハリー・ハイネ(Harry Heine)として生まれた彼は

 

ユダヤ人であることや

「ハリー」という名が、何だかイギリス人みたいだということで

少年時代にはからかわれたりした事もあったそうです。

 

そんなこともあってか

27歳の時に名前をハリーからハインリヒ(Heinrich)に改め

同時に信仰の方も

ユダヤ教からプロテスタントに改宗したりしています。

 

 

ロマンチックな作風で人気の高いハイネですが

実は、彼は社会問題にも大変関心が深く

「自由と解放の詩人」

と呼ばれるような側面も持っているんですよ。

 

そのため

ハイネの本は1835年

ドイツ語圏において全てが発禁処分にされてしまったことがあります。

 

そんな息苦しいドイツから

彼は1831年出国し

フランス・パリに移住して一生を終えています。

 

 

お次にご紹介しますのは

1844年

シレジア(現在はポーランド領)の地で起こった

貧しい織物工たちの労働蜂起を歌った詩です。

 

これは、ドイツで最初の大規模労働蜂起だったのですが

軍の発砲により鎮圧されてしまい

そのことに対する激烈な憤りを歌ったものです。

 

こちらの詩はドイツ文学者で俳人檜山哲彦さんの翻訳となります。

 

 

 

シレジアの職工

 

 

暗い眼に涙なく

みなは機(はた)に就いて歯をむき出す

老いぼれドイツよ、俺たちが織るのはおまえの死装束

三重(みえ)の呪いを織り込んでやる───

織る、俺たちは織る!

 

ひとつの呪いは神に

飢えと寒さに責められて祈りをささげた神に

望みをかけて俺たちは待ちに待ったが

さんざからかったあげくあいつはあざむいた───

織る、俺たちは織る!

 

ひとつの呪いは王に、邦々(くにぐに)をたばねる王に

この苦しみを知りながら心やわらげもせず

さいごの小銭までむしりとり

俺たちを犬のように射(う)たせる王に───

織る、俺たちは織る!

 

ひとつの呪いは腹黒い祖国に

うすぎたない恥ばかりはびこり

時いたらぬうちに花は手折(たお)られ

腐敗が蛆(うじ)をふとらせる国───

織る、俺たちは織る!

 

杼(ひ)は飛び、機(はた)はとどろき

俺たちは日に夜をついで織り続ける───

老いぼれドイツよ、織るのはおまえの死装束

三重の呪いを織り込んでやる

織る、俺たちは織る!

 

 

「三重(みえ)の呪いを織り込んでやる」

と怒りの矛先を向けられている

「神」「国王」「祖国」

 

これは、かつて

プロイセン(ドイツ)がナポレオンからの解放戦争の時に掲げた愛国スローガン

「神と共に国王と祖国のために」

にちなんでいます。

 

そのような美辞麗句で煽り立て、祖国のために戦わせてきた国民に対し

今お前たちは平気で銃口を向けるのか!

───という悲憤ですね。

 

 

ハイネの本は受難が多くて

その死からずっと後年になるナチス政権下には

ユダヤ人の作品だ」

ということで焚書され

禁書の対象とされてしまいました……。(T_T)

 

しかし

 

すでにドイツの人々にとって馴染み深い唱歌となっていた

ローレライだけは「作詞者不詳」ということで

ドイツ国内で出版される本にも載せられ続けていたんだそうです。

 

 

ローレライ

ドイツのライン川に伝わる伝説をうたった作品です。

 

ライン川の中ほどに

ローレライという岩山があるのですが

 

この岩の近くを船が通りかかった時

岩の上からうっとりとするような乙女(=精霊)の美しい歌声が聴こえてくるそうです。

 

そこで

歌声に心奪われてしまった水夫が

舵取りもおろそかにボンヤリしている間

 

船が事故を起こして沈没してしまう……


───そんな言い伝えがあるんだそうですよ。

 

 

こちらがその

唱歌ローレライ

 

作曲フリードリヒ・ジルヒャー

日本語の訳詞近藤朔風

 

日本では明治時代から広く親しまれ、合唱などでよく歌われています。

 


www.youtube.com

 

そしてこちらが

片山敏彦訳によるローレライとなります。

 

ローレライ

 

 

わが心かく愁(うれ)わしき

その故(ゆえ)をみずから知らず。

いと古き世の物語、

わが思うこと繁(しげ)し。

 

夕さりて風はすずしく

靜かなりライン河

沈む日の夕映に

山の端(は)は照りはえつ。

 

巌(いわお)の上(え)にすわれるは

うるわしき乙女かな。

こんじきに宝石(いし)はきらめき、

こんじきの髪梳(す)く乙女。

 

 

金の櫛、髪を梳きつつ、

歌うたうその乙女。

聞ゆるは、くすしく強き

力もつその歌のふし。

 

小舟やる舟びとは

歌聞きて悲しさ迫り、

思わずも仰ぎ眺めつ。

乗り上ぐる岩も気づかず。

 

舟びとよ、心ゆるすな、

河波に呑まれ果てなん。

されどああ歌の強さよ、

甲斐あらず舟は沈みぬ。

 

 

 

魔性の乙女が

清楚系の美少女っぽいところ

歌の曲調が

やけに明るく爽やかなところ

 

そんなところが、かえって

ラストシーンの残酷さを引き立たせているような気がします……。(+_+;))

 

 

 



 

関連記事のご案内

 

 

シャミッソー「影をなくした男」について

todawara.hatenablog.com

 

バルザック谷間の百合」について

todawara.hatenablog.com

 

ランボーの詩のご紹介

todawara.hatenablog.com

 

 

 

こちらは私の本になります。よろしくお願いいたします。