TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

「機長の心理学」(デヴィッド・ビーティ著)の紹介~ほんのわずかな心の動きが重大事故をひき起こす!!

今回は

航空機事故の原因となる

「ヒューマンファクター(人的要因)」について

英国海外航空(ブリティシュ・エアウェイズの前身)の元機長であり心理学者でもある

デヴィッド・ビーティ氏(1919-1999)が書き著した

「機長の心理学」

という本の

ご紹介をいたします。

翻訳はかつてANAで機長をされていた小西進さんです。

 

 

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CASE1

ユナイテッド航空定期貨物便墜落事故(1983.1.10)

《事故機》 ユナイテッド航空2885貨物便 ダグラスDC-8型機

 

 

《登場人物》

 

機長 

経験豊富できわめて優秀、幸せな家庭を持つ良き父、クルーたちといい関係を築くことでも評判

 

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副操縦士 

能力は並程度、ある意味機械的操作をするパイロットと評されている、ノリが良い

 

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SO(セカンドオフィサー) 

※当時ユナイテッド航空では専門職としての航空機関士を置かず、パイロットとしてのキャリアはまずSOからスタートし、訓練や試験を経て副操縦士→機長と昇進する制度だった。SOは機関士の業務を行っていた

 

おとなしく内気な性格、これまでずっと挫折続き。

 

教官から「一生懸命に学ぶ態度は素晴らしいのだけれども、残念ながらパイロットになるには能力的に問題がある」と通告され

 

会社からは「今後パイロットとして上位昇進するのは諦めて、このままずっとSOの地位に止まる事に同意してほしい」と言われ

本人もそれで納得していた。

 

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事件が起こったのは

1983年1月10日───

 

 

ユナイテッド航空2885定期貨物便

シカゴからデトロイトを経由してロサンゼルスに向かう予定でした。

 

デトロイトまでは特に変わった事もなく

空港に着陸したDC8型機は貨物を下ろされ、燃料が補給され、ロサンゼルス行きの貨物が積み込まれました。

 

この時

雲高は1900フィート

風も穏やかで天候も良好。

 

機長の心に

ふとこんな考えが浮かんだようです ───

 

こんないい夜だ

あの内気なSO君に

夜の離陸経験をさせてあげよう……。

 

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飛行機に乗りこむやいなや。まるで息子を野球に誘うように、機長は愛想よくたずねた。

「君たち、代わる?」

自分の機関士の地位に満足しきっている例のSOは、この「君たち、代わる?」にあわてふためいた。しかし、副操縦士は即座に答えた。

「そうしよう!」

 

この後、機長は

戸惑うSOに向かってしつこく

「君たち、代わる?」

を繰り返し、副操縦士までもが

「私も用意するから、君も用意しなさいよ」

と迫っています。

 

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「君たち代わる?」

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「やろうよ、やろう」


自分の事を気遣って言ってくれているんだし……、

二人を喜ばせないといけないかな……。

 

───そう考えたSOは、全く気乗りはしないのですが

あまりにしつこく迫られるので

仕方なく

「がんばります!」

と答えてしまいました。

 

ノリノリの副操縦士が大声で

「交代準備オッケーです!」

 

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SO

「うわ~、本当に代わるんですか……?」

 

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こうして二人の座席交代が実行に移され

 

能力不足でパイロットには不適格と言われていたSOが

副操縦士の業務をやらされることになったのです。

 

 

副操縦士の席に着いたSOは不安で一杯。

飛行機が轟音と共に走り始めてから

 

「トランスポンダ―・オン……?」

コールした声にも

不安がありありと現れていました。

 

操縦室の会話は、元気づけ、注意、合図、そしてためらいが入り混じっている。

しかし、機長にはそれほどのためらいは感じられない。

 

飛行機は滑走路を半分から3分の2くらい走った所で

離陸姿勢に引き上げられました。

 

離陸後1000フィートまで上昇したところで

突然、機首が急激に上を向き

大惨事が起きました。

 

爆発と共に散った火花

花火のように空を照らし

火の玉猛烈な炎となって燃え広がりました。

 

この墜落事故で

生存者は一人もいませんでした……。

 

 

 この後、事故調査委員会

事故原因について色々と仮説が検討されました。

 

 

副操縦士とSOが座席を交換した時に

不用意に自動操縦を接続した可能性。

 

デトロイト着陸後に

スタビライザー(水平尾翼)を

中立位置に戻しておかなかった可能性。

 

最後の数秒間

SOが操縦桿を握ったまま固まってしまい

機長の回復操作を妨げた可能性……。

 

最終的に事故原因は

 

飛行機が制御不能になる前に

クルーがスタビライザーの不適切なセットに気が付かず、修正できなかった事。

 

───と結論されました。

 

そしてそれを生み出した一つの要因は

 

機長が操縦資格の無いSOを

副操縦士席に座らせて離陸させたことである。

 

───とされたのでした。

 

 

 

 CASE2

英国海外航空(BOAC)機 富士山上空 空中分解事故(1966.3.5)

《事故機》 英国海外航空911便 ボーイング707-436型機

 

1966年3月5日13時58分

 

英国海外航空(BOAC…現ブリティッシュエアウェイズ)の911便(ボーイング707型機)は

香港に向かうため

羽田空港を飛び立ちました。

 

(─── 実はこの時、羽田空港の滑走路周辺には

前日に着陸失敗して墜落したカナダ太平洋航空402便・DC-8-43型機の残骸が散らばったままでした。

───こちらの事故では64名の死者が出ています……)

 



当初

この機(BOA911便)は

富士山の南側を回る計器飛行方式(IFR)

の飛行計画書を提出していたのですが

 

機長は地上移動を始める寸前になって気が変わり

 

管制官

富士山経由の有視界飛行方式(F1)

による上昇の許可を求めて

受理されたのでした。

 

おそらく彼は、青空に映える白雪の嶺を見て、これは乗客にも楽しんでもらえると思ったのだろう。

「晴れわたったときこそ、富士は怒る」

という日本の言い伝えがある。

クルーは上空に強風が吹いているという概略説明を受けており、機長も運行管理者も、富士山に向かって飛ぶための天候調査など考えもしなかった。

山越えの強風による危険な乱気流はよく知られている。

 

離陸後

機長は管制官に向かって言いました。

 

ごきげんよう(グッディ)! 」

 

─── それが飛行機から聞こえた

最後の言葉となってしまいました。

 

 

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乗客が遺した8ミリフィルムには

 

山中湖周辺の光景の後に

突如2コマスキップして

ひっくり返った客席と引き裂かれたカーペット

ボンヤリと映っていたのですが

 

それきり

フィルムは止まっています。

 

B707型機は空中分解

124名乗員乗客全員

帰らぬ人となってしまいました……。

 

事故調査報告書には、可能性のある原因として、

「機体はとつぜん突風に遭遇し、設計限界を超える荷重がかかったために、空中分解した」

と書かれている。

 

 

(1966年は異常なほど飛行機事故の多かった年でした。

 

3月5日に発生したこの事故以外にも

 

2月4日に全日空機羽田沖墜落事故

 

3月4日に前述のカナダ太平洋航空機羽田空港墜落事故

 

8月26日には日本航空羽田空港墜落事故

 

そして

 

11月13日には全日空機松山沖墜落事故があり

 

合計5件もの重大事故が起こっています)

 

 

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上にあげました二つの重大事故はどちらとも

地上においてはむしろ歓迎されるような

優しさとか

サービス精神といった気持ちが

取り返しのつかない大惨事に繋がってしまっている所が

なんとも怖い所ですよね……。

 

 

ほんのわずかな判断ミスがとてつもない危険を引き起こしかねないコックピットでは

 

パイロットの心理が平常地上にいる時とは

比べ物にならないほど重大な作用を及ぼしてしまう ───

 

これってきっと

バスとか電車とかの運転手さんも同じなんでしょうね。

 

とにかく何よりも最重要なのが

安全であるということ。

 

それを妨げるようなものであれば

「優しさ」だろうが「サービス精神」だろうが

でしかないんです。

 

人の命を預かるお仕事って厳しいですね……。

 

だからこそ

それに携わっている方々はすごい。

 

その不断の努力と心身両面の強さには

感謝と尊敬の念を抱いてやみません。

 

 

 

今回ご紹介した本はこちらです。

機長の心理学―葬り去られてきた墜落の真実 (講談社+α文庫)

機長の心理学―葬り去られてきた墜落の真実 (講談社+α文庫)

 

 


 

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台風スウェル

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