今回はイギリスの小説家
サキ(本名ヘクター・ヒュー・マンロー1870-1916)の短編小説を集めた
岩波文庫の
「サキ傑作集」河田智雄訳
のご紹介をいたします。
まず感想から述べさせていただきますと
これ
めちゃめちゃ面白いです!
短編の名手サキの「傑作集」というだけあって
一っつもハズレがありません!
物語のページ数は大変に短いのですが
わりに込み入った舞台設定でも
簡潔、的確な説明と絶妙な語り口に乗せられて
「ふんふん」
「ほうほう」
と読み進めていくうちに
結末近くでアッと驚くどんでん返しがあり
見事に背負い投げをくらわされてしまう。
そんな感じが
クセになってしまいそうです。
話は良く良く計算された上で
しっかりと構成されている感じで
最後の方に驚くようなオチが来るあたりは
星新一に通じるところがあるように思えます。
サキの作風は
ひねりと皮肉の効いた
ブラックユーモアです。
ちょっとイジワルっぽい所もありますが
鼻持ちならない、嫌ぁ~な性格の人が災難に遭うのを
ニヤニヤ笑いながら見ている
という感じで
読後感はそんなに悪くありません。
皮肉でクールで
いかにもイギリス的な気がします。
それにしても
こんなに短いページ数で
こんなにもエッジの効いた話が書けるなんて
何て
カッコ良いんでしょう!
余程、頭の鋭い人なんだろうな~と思います。
(こんな人を敵に回したら、きっと超厄介でしょうね)
サキは幼い時に母に死に別れため
厳しい伯母さんに引き取られ、育てられたらしいのですが
「スレドニ・ヴァシュター」
「物置部屋」
などは
子供を可愛がらない意地悪な伯母さんが
かなり酷い災難に遭う話となっています。
……これって、もしかすると
子供の頃に抱いていた怨みを
作品上で思い切り晴らしているのかも……?
「物置部屋」に出てくる伯母さんの意地悪って
しつけと当てこすりが合わさったみたいな感じで
いかにも子育て中の大人がやってしまいそう。
そんなところは 大変リアルな感じがします。
また
伯母さんから罰を受けている子供
ニコラスのヒネクレ坊主っぷりが
これだけヒネクレた子供だったら
伯母さんもさぞかし憎々しく思うだろうな~
などと想像され
その
どっちもどっちな性悪ぶりが
なんだか可笑しみを誘ってきます。
この本の中で、私が特に好きだった話は
「人形の一生」です。
おもちゃ屋のショーウインドーに
人形が飾られているんですけれど
この人形
服装こそオシャレなものの
いかにも根性悪な顔つきをしているんです。
で
裏町に住んでる10歳と7歳の姉弟が
公園に遊びに行く途中
いつも、そのおもちゃ屋の前を通りかかるのですが
彼らはそこに差し掛かるたびに
その人形について
「札付きの性悪女」としての身の上話を想像して
二人してあれこれ語り合うのが
ちょっとした遊び
みたいになっているんです。
この姉弟の空想が
余りにもえげつなくて
まるで
女性週刊誌のゴシップ記事みたい。
そんなところが
まず
面白すぎるところなのですが
そんなある日
ついにこの人形が
姉弟の目の前で買われて行く事になるんです!
(こんなにカワイクナイ人形なのに!)
人形の買い手は金持ちっぽい
あんまり性格の良くなさそうな男の子。
その後の
人形の運命が
どうなってしまうのか!!
またまた
えええっ!?
という感じの
ビックリ展開
なので
みなさんも良かったら読んでみてください。
サキとほぼ同時代に活躍した作家には
アメリカ人の
O・ヘンリー(1862-1910)がいるのですが
二人共、短編の名手として知られているために
それぞれに趣の違う作風が
対照的に語られることが多いみたいです。
私はO・ヘンリーもサキもどちらも大好きなのですが
例えて言うならば
読み進めるうちに
じわ~っとした温かさが沁みてくる
O・ヘンリーの作風は
ホットジンジャー紅茶
ピリッと尖ったサキの作風は
スパイスの効いた
辛口カレー
という感じですかね。
(どちらも美味しい~♥)
かつてビルマ警察に勤務していた父親の口利きで
ビルマ警察に入ったサキは
マラリアに罹って警察を辞めた後
イギリスに戻り
ジャーナリストとなりました。
それから小説家になったサキは
第一次世界大戦がはじまった43歳の時
規定年齢を超えているにもかかわらず
志願して軍に入りました。
軍曹勤務伍長にまで昇進した彼は
1916年11月14日
フランスの前線で
ドイツ兵に頭を狙撃され
戦死してしまいました。
享年45歳。
あぁぁ、若すぎる……。
煙草の煙で敵に居場所がばれる事を恐れ
「その煙草を消してくれ!」
と言ったのが
彼の最後の言葉だったそうです。
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