今回はアメリカの文豪
ジョン・スタインベック(1902-1968)が
1937年に発表した中編小説
「ハツカネズミと人間」
について
感想とご紹介を書かせていただきます。
こちらの作品は1992年に映画化されています。主人公のレニー役はジョン・マルコヴィッチ。
名作というのは往々にして
何かを深く考えさせてくれるような作品である場合が多いのですが
物語(小説、戯曲、映画など)の場合
地の文章や登場人物が発する言葉に、なにか深いもの(人生観や哲学など)が織り込まれている
という形式のものもあれば
物語の筋自体を通して、なにか考えさせられるものがある
という
ざっくり言って二つのパターンがあると思います。
この「ハツカネズミと人間」という作品は後者の
話の展開自体が色々と考えさせられる
というタイプのものなので
その「考えさせられた部分」を紹介するにあたって、どうしてもネタバレしなければ伝えられないような気もするのですが
非常に深く心打たれる物語であり
未読の方にはぜひとも
新鮮な驚きを感じていただきたいと思いますので
今回はなるべく
ネタバレしないようにお伝えしようと思います。(^^;)
この物語の主人公は
頭の切れる小柄な男ジョージ
と
知的障がいを持った大男のレニー
幼馴染同士の二人は農場から農場を渡り歩いている
貧しい労働者コンビです。
レニーの良い所も悪い所も全て知り抜いているジョージは、兄のように、父親のように、常に彼をかばい、守ってやり
一方、レニーはジョージに絶対的な信頼を寄せていて、彼の言いつけに背くようなことはありません。
二人の心は強い絆で結ばれています。
レニーは体が人一倍大きく
並外れた怪力を持っています。
そのため、働き手としては優れている面もあるのですが
知的障がいのため、力の微妙な加減というものが出来ず
時に、困った事件を起こしてしまう事もあります。
レニーの精神はほとんど
幼い子供同然です。
いつも
「小さい動物を可愛がりたい」
と思っているので
ハツカネズミなどを見つけると
すぐに掴まえ、可愛がるのですが
力加減というものができないために
いつも死なせてしまうのです。
レニーの持つ怪力は
本人にも制御できないがゆえに
非常に厄介なものなのですが
ジョージだけは彼の扱い方を熟知しているので
レニーも彼の側にいる時だけは安心していられるのです。
しかし
ひとたび世間へ出ると
事情を知らない一般の人々には
彼のための特別な配慮など期待できません ───
レニーと、そして
彼にぴったり寄り添うジョージにも
安住の地はありません。
以前いた農場でなにか厄介事を起こしてしまったらしい彼らが
新しい農場に向かう所から
この物語は始まっています。
雑多な人のいる場所では
レニーが幸せに生きるのは難しい……
ジョージには
二人の将来のプランがありました。
出稼ぎで頑張ってお金を貯めて
どこかに自分たちの自由にできる小さな土地を買い
家を建てて、畑を作り、家畜を養って
そこで仲良く暮らす事。
それは二人にとっての夢であり
レニーはそこで、たくさんのウサギの世話をさせてもらえる事を、一番の楽しみにしています。
誰からも余計な干渉をされない安住の地……
基本的に自給自足の生活で
世間とのやり取りは必要最低限で……
こういう生活を理想とする人は
彼らばかりではなく
現代人の中にも多いのではないでしようか。
私も時々、そんな暮らしを想う時があります。
決して贅沢な望みでは無いから
手を伸ばせばすぐにでも届きそうなんだけれども
その実、本当に実現可能かどうかはわからない夢の暮らし……
手が届きそうで、なかなか届かない
桃源郷のような場所 ───
お金を稼ぐため、新天地の農場に到着すると、そこにもやはり、いろんな人々がいました。
思慮深い、労働者たちのリーダー格のスリムを始めとして
少し冷酷な所があるカールソン
掃除夫のキャンディ老人
勉強熱心な黒人の馬屋係クルックス
そして
意地の悪い農場主の息子カーリーと
欲求不満を持て余している彼の浮気な若妻……
世の中一般がそうであるように
やはり
良い人もいれば嫌な奴もいます。
二人を理解してくれる人がいる一方で
敵意しか向けてこない人間もいます。
誰もが「幸せになりたい」と願っているのに
色々な人が混在する人間社会では
色々な人が混在しているがゆえに
その実現は困難を極めます。
とりわけ
障がいがあったり、差別されている人々にとってはなおさらの事……。
人間誰しも、いつ何時、弱者の立場に置かれるようになってもおかしくない ───
そう自戒しておくことは大切だと思います。
他人への思いやりを忘れないためにも……。
(思いやりが失われた場所は、まず間違いなく殺伐とした地獄と化しますから)
この物語を読みすすめるうちに
レニーやジョージや、キャンディ爺さんが愛おしくなり、身内のような心持ちになっていました。
それだけに読了後には
心に深く、えぐられるような痛みを感じてしまいました……。
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ロシアの文豪ゴーリキー作「どん底」……この作品は「ハツカネズミと人間」と相通ずる部分があるような気がします。
こちらは私の本になります。よろしくお願いいたします。