毎日楽しみに読んでいた朝刊連載小説
角田光代さんの「タラント」が、今日、遂に完結しました。
本当に素晴らしい物語で、読んでいる時には何度も心が震え、終章を読み終えた時には涙が滲んでいました。
この先書籍化されて、より多くの人の元に届けられるべき、出来立てホヤホヤの物語でありますので
今回は極力、ネタバレを避けながら、感想を述べさせていただこうと思います。
第二次世界大戦中に学徒出陣で駆り出され、南方戦線で片脚を失う事になってしまった青年・清美と、その孫娘・みのり。
物語はこの二人を軸に展開されているのですが
メインとなる主人公はみのりです。
現在、三十代半ばの彼女は、学生時代ボランティアサークルに所属していて、二十代の頃には仕事を通して発展途上国や紛争地域で難民となっている人々などを手助けするボランティア活動をしていました。
しかし
その活動を通してトラウマとなるような挫折や、様々に思い悩む所があり
今現在はそういう「使命感」のようなものや「熱いこころざし」のようなものを、意図的に遠ざけたいと思う心境になっています。
物語の最初のうちは
祖父・清美の戦争の記憶と、現代のみのりの状況や心境が
遠く離れた所にある二つの点のように感じられて
これがこの先、どのように関連していくのかがわからなかったのですが
みのりがかつて、仲間達と共に抱いていた熱い思い、そしてそこからの挫折感や心の傷などといったものと
自分の事を妻子や孫にも一切語る事のなかった清美の挫折感とが次第にリンクしていき
ひとつの大きな物語へと、ぐわーっと収斂されていく様子には
鳥肌が立つほどの感動をおぼえました。
この物語の何が凄いと言って
みのりや、そのボランティアサークルの仲間たちは、社会人になってからも学生時代からの活動に関連して、それぞれジャーナリストやカメラマンなどを目指し、ボランティア界隈で様々に活動しているのですが
そういった現場で
何が良い事で何がいけないことなのか?とか
それは本当に人のためになっているのだろうか?とか
そこに自分の功利心や功名心はなかっただろうか?とか
そういった事を
いろいろいろいろ、深く考える所なんですよね。
人にはそれぞれに色々な思いや事情があり、個性の違う人々がそれぞれ真剣に考えた末での行動がある ────
そしてさらに
ものごとには色々な側面があるのだから ────
事情を知らない第三者が、ある人のある一面をパッと見ただけで、
「この人はこうだ」
なんて判断して、簡単に決めつける事はできないよなあ……と思わされます。
ここまで意識の深層部に思索を掘り下げて
それを物語という形に再構築し、言葉に紡ぎだしていくという作業は
作家さんとしては精神的にも身体的にも、並大抵の労力ではなかったのではないでしょうか。
誰かを支援する、支援されるということ
現在と過去、日本と世界
障害を克服すること……
物語世界の舞台は広く、テーマも多岐にわたっています。
連載時にはまだまだ現在進行形であるところのコロナウィルス禍や
それにより、東京オリンピック、パラリンピックの開催もどうなるか全くわからないという状況下であるにも関わらず
それをも作品の中に織り込んで────というか、大きな構成要素の一つとして
非常にスケールの大きな物語として綺麗な形にまとめあげられているのが
見事としか言いようがありません。
毎日の新聞連載となると、ほとんどぶっつけ本番みたいなものですから
仕上がってみるまでは、小説としての全体像がどうなるのかわからないのに
これだけ難しい要素の色々ある話が、こんなにきっちり綺麗に仕上がるなんて、なんだか奇跡を見ているようです。
スケールが大きく、深く考えさせられることが多く、非常に感動的な名作です。
角田さんの手腕
おそるべし!!
これほどまでの傑作が
現在進行形で出来上がっていく所に立ち会えた
そんな気分になれるのがなんか嬉しいです。
これぞ新聞小説の醍醐味ですよね! (^_^)
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こちらは私の本になります。よろしくお願いいたします。