TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

読売新聞連載小説 柴崎友香さん「遠くまで歩く」の感想。

読売新聞の夕刊紙上にて連載されていた

柴崎友香さんの

「遠くまで歩く」が先日完結しました。

 

毎日楽しく読んでいましたので、その感想を書こうと思います。

 

 

お話の内容を簡単にご紹介しますと

以下のようになります。

 

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時は2020年から2023年頃

世界中がコロナ禍に見舞われ、人との集まりが制限されていた日々。

 

作家の森木ヤマネはオンライン上で行われている

「映像と文章を組み合わせた表現活動」の講座に

ゲスト講師として参加することになる。

 

日本中、世界中からこの講座に参加している、年齢も性別も職業も様々な人々が

課題として出された形式にのっとりながら、めいめい思い出深いの場所であるとか、印象に残ったエピソードなどを紹介し

それについて参加者が思い思いに感想を述べていく ────

 

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全体を貫くような

いわゆる「物語」らしい「物語」というのは無く

その時々に、主人公のヤマネが思う事だとか、感じた事だとか

 

オンライン講座で次々に発表される

人々の思い出の風景や

そこにまつわるエピソードだとかが

淡々と語られていて

不思議な味わいのある小説でした。

 

エッセイっぽいというか

ドキュメンタリーっぽいというか……。

 

 

なので

「グイグイと物語世界に引き込まれる」

というタイプの小説とは、全然違うんですけれど

 

読みながら、自分も脳内で

オンライン講座の一人として参加しているみたいな気分になって

 

他の人とその時間を共有しているような

 

ある事柄について

それをどんな風に感じているか

考えているか

意見を交換し合っているような

 

そんな感覚になれるのが、なんだか不思議で

読んでいる時間が、とても心地良かったです。

 

小説の形態って、本当に色んなバリエーションがありますね。面白い。

 

 

思えば

 

人と人との接触が極端に制限された

コロナ禍の3年間っていうのは

ちょっと、異常な時代ではありましたよね……。

 

人間ってやっばり

それほど緊密でなくても、親密でなくても

他人との繋がりを欲している生き物なんじゃないかと思います。

 

直接的な繋がりに限らず

道具(本やネットなど)を介しての、間接的な繫がりにせよ。

 

 

他の人が存在してくれて

何かを伝えてくれるから

 

自分以外の人の視点や想いを想像することが出来るし

経験や知識を共有することも出来る。

 

自分が経験した事でありながら

当人がすっかり忘れてしまっているような事だって

他の人が、ちゃんと記憶してくれていたりすることもある。

 

だから人間にとって

自分以外の人の存在って、すごく大切。

 

そんなふうに考えると

 

言葉や文字や道具を使って

空間や時代さえ飛び超えて、繋がり合おうとする人間って

かなり特殊な動物ですよね。

 

 

地球上には無数の生物がいる中で

どうして

人間だけがこんな風に進化しているんでしょう?

 

そしてまた

 

どうして私は

人間として存在しているんでしょう?

 

時々、不思議に思う時があります。

 

「遠くまで歩く」は、そんな様なことも含め

色々なものを感じさせ、考えさせてくれる、素敵な物語でした。

 

 

 

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