TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

読売新聞連載小説 木内昇さん「惣十郎浮世始末」の感想

読売新聞の朝刊で連載されていた

木内昇さんの時代小説

「惣十郎浮世始末」が完結しましたので

今回はそのご紹介と感想を書こうと思います。

 

毎日少しずつ進む小説欄を読むひとときが

「ずっとこのまま続けばよいのになぁ……」

愛おしく思えてくるような

とっても素敵な物語世界でした。

 


舞台は、老中水野忠邦が世間に質素倹約を命じていた、天保の時分の江戸になります。

 

ある夜、薬種問屋で火事が起こり、店や家屋が全焼。

その場で店主とおぼしき死体が発見されたものの、後から色々と不審な事実が浮かび上がってきます。

 

主人公の定町廻り同心・服部惣十郎が、部下となる佐吉(ちょっとボンヤリ君)&完治(メッチャ切れ者)という、対照的な性格の二人の岡っ引きともに、事件の全容を解明していく────

というのが、物語全体を貫く大きな筋となっています。

 

事件の全容が解明されていくにつれ

それが引き起こされた原因となっている問題は

現在我々が生きている、この時代にも完全に当てはまる問題なんじゃないかな……と、感じました。

 

「文明・科学の発展」とか

「多くの人々の幸福に寄与するため」という

大義名分の陰で

常にどうしても発生してしまう

「多少の犠牲

 

「そんなの仕方ないじゃない?

と言う声の方が圧倒的に多いんでしょうけれど

 

もし、その「多少の犠牲」自分だったり、自分の身内だったら

誰だって、たまったもんじゃないでしょう……?

 

そんなことに関して

哲学的、倫理的、道義的に色々と考えさせられてしまうような

かなり深いところがありました。

 

 

そんな大きなテーマもさることながら

さらにこの小説の大きな魅力となっているのは

登場人物それぞれの行動やセリフなどから感じられる、雑感人生観のような部分です。

 

「ああ……、そうだよなあ……」

胸に沁みてくるようなところがあって

ハッとさせられたり、頷かされたり、時に、癒されたり……。

 

こういうのって、作者の木内さんの人間力が相当高いから書けるんでしょうね。

 

描かれる人々すべてにが感じられました。

懐の深い、暖かい物語です。

 

最近、私は思うようになったのですが

 

人間って誰しもが根っこの所で

他者に自分の事を理解してもらいたい

とか

自分の感じている事に共感してもらいたい

とかいった欲求を抱えているものなんじゃないでしょうか。

 

なので

自分がなんとなく漠然と思ったり感じたりしている事を

他の人がきちんと言葉に表して提示してくれたりすると

 

なんだか自分に共感してもらえたような

心が通じ合ったような気分になって

嬉しくなってきちゃうんですよねぇ……。

 

ちょっと、幸せな気分になれるというか。

 

 

最後に

 

この物語の忘れちゃならない魅力をもう一つ。

 

惣十郎の家には、家事の手伝いをしてくれている、お雅という美人さんがいるんですけど

 

惣十郎に密かに想いを寄せている彼女が作る手料理が、これまた

どれもこれも

ものすご~く美味しそうなんですよ。

 

呑んべえの方だったら、

読みながら想像するだけでも

お酒が二、三杯進んじゃうかもしれませんね。(^_^)

 



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