その昔、中国には
鴆(ちん)という名の鳥がいたそうです。
ワシくらいの大きさで羽は緑色、くちばしは銅のような色
だとか
目は黒く、首の長さは7・8寸(21~24㎝くらい)
紫黒色をしていて、くちばしは赤
など
色々言われているのですが
実はこの鳥
毒蛇を食べる習性があって
そのためか
体に強烈な毒を持っていたんだそうです。
その毒の強烈さといったら大変なもので
鴆が耕地の上を飛ぶと
作物はみな枯れてしまい
石の下に隠れた蛇を捉まえるために、鴆がその石にフンをひっかけると
石が砕けてしまうほどだったそう。
……って
ほとんど毒ガスレベルなんですが……
そのため
この鳥の羽毛から採取した毒は
しばしば暗殺に使われていたんだそうで
この毒の事を
鴆毒(ちんどく)
と言います。
鴆の羽を酒に浸して毒酒を作り
相手に飲ませて殺したりしたんだそうです。
上空を飛んでるだけで下界の作物を枯らせてしまうほどの
超絶毒毒バード
ですからねえ……
掴まえたり、飼育したり、羽をむしったり
なんてしたら
他人を暗殺する以前に
自分が死んじゃいそう!
───って思うのですが
この鳥
昔の中国の多くの文献に登場しているんです。
とはいうものの
明や清などの比較的新しい時代になると
この鳥の実在をうかがわせるような記録も無くなり
近年では
えーっ?毒を持つ鳥なんて
伝説の中のお話でしょぉ?
───と
すっかりそんな感じに思われていたのですが
1990(平成2)年
ニューギニア島の森林に生息している
「ピトフーイ」
と総称されている
スズメ目(もく)の鳥のうち
ズグロモリモズ
という小鳥に
非常に強力な毒性がある事が発見されたのです!
シカゴ大学の大学院生らがフウチョウ類の行動を観察するため、かすみ網を設置していたところ
ズグロモリモズまでが一緒に捕獲されてしまい
院生のジョン・ダンバッチャーさんがそれを網から外そうとした時、カブッ!と咬まれてしまったんだそうです。
ジョン・ダンバッチャーさんが咄嗟に傷口を舐めた所、口の中が熱くなり
今度は(よせばいいのに)
羽毛を舌にのせてみた所
クシャミが出て
口や鼻の中がヒリヒリ痺れてきてしまいました。
ダンバッチャーさんが、後によくよく調べてみた所
および
同じく「ピトフーイ」と呼ばれている
カワリモリモズ、サビイロモリモズの羽毛や皮膚には
ホモバトラコトキシンという
ステロイド系アルカロイドの神経毒が含まれていることが判明したのです。
(彼はこれを論文にまとめ、1992年「サイエンス」誌上にて発表)
中でもズグロモリモズの毒性は最強で
皮膚10mgあるいは羽毛 25mg
に含まれる毒で
ネズミを殺してしまうほどなんだそうですよ。
実はこの
「ピトフーイ」と呼ばれる小鳥たち
現地の人々にとっては、昔から食べられない鳥としてよく知られていたんだそうです。
その後
クロモリモズとカンムリモリモズにも毒性がある事が判明し
「ピトフーイ」と呼ばれる6種類の鳥のうち
ムナフモリモズを除く
5種までが毒を持っていることが判明しました。
そのため、今では
「ピトフーイ」という名称は
有毒鳥類の代名詞として
よく知られるようになっています。
この6種類の鳥は一般的に
グループ名として
「ピトフーイ」
と一括りに呼ばれているのですが
厳密に言えば
一番毒性の強い
ズグロモリモズとカワリモリモズは
ムナフモリモズ、サビイロモリモズ、クロモリモズは
モズヒタキ科
カンムリモリモズは
カンムリモズビタキ科
と
それぞれ微妙〜に分類される所が違っているそうです。
ピトフーイ……
結構、可愛らしい見た目をしていますので
飼育して
その毒を悪用しようなんて考える
ワルモノがいるかもしれませんよねえ……
ところが
人工的な飼育環境では
彼らは
全く毒を生産しないんだそうです。(^_-)
ピトフーイの毒は
彼らがいつも食べている
特殊な甲虫類(Choresine)の持つ毒に由来しているんだそうで
ピトフーイに毒を持たせるためには
この毒虫を結構な数
常に用意しておく必要があります。
そんなに面倒くさい事するなら
直接毒虫から毒を採った方が早いじゃん……
って話ですね……。
かつては伝説上の存在だとばかり思われていた毒鳥ですが
ピトフーイの毒性が発見されて以後
ニューギニアに住む
ズアオチメドリ
パプアニューギニアやオーストラリアに住んでいる
チャイロモズツグミ
アフリカなどに住む
ツバメガン
ヨーロッパからアジアにかけて生息している
ヨーロッパウズラ
など
近年、続々と発見されているそうですよ!
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