先日、カレル・チャペックの
「園芸家12ヵ月」
という本を読んだとき
訳者のドイツ文学者
小松太郎さん(1900-1974)が巻末の方でお書きになっていた訳注の中で
マンドラゴーラ
という植物についての紹介があったのですが
これがあまりにも摩訶不思議
奇妙キテレツ過ぎましたので
ここにご紹介したいと思います。
不思議な植物マンドラゴーラについて
小松さんはこのようにお書きになっています。
英語では別にマンドレークとも言い、ドイツ語ではアルラウン、またはアルラウネとも言う。
チャペックがここにあげている一連の植物のうちで、エデンの園にあるという「知恵の木」を除くと、神秘的な点ではマンドラゴーラが随一といえるだろう。
中公文庫「園芸家12ヵ月」訳注より
マンドラゴーラ(Mandragora)
またの名を
この植物は
ナス科マンドラゴラ属
に属する
地中海沿岸からトルコにかけてが原産の
実在の植物です。
この本において小松さんは
「メギ科」と書かれているのですが
本当の所は「ナス科」。
さらに
「花は黄色でやや緑色をおび」
とも書かれていますが
花の色は紫っぽい青色です。
(この訳注が書かれたのは昭和34年という、かなり昔の時代ですので、当時得られる情報は、今より非常に少なかったのではないかと思われます)
また、小松さんの訳注には
「マンドラゴーラは学名ポドフィルルムの中にある種(スペシース)のうちの一つで、地中海沿岸地帯原産のオフィキナルムという植物」
とも書かれてあるのですが
ポドフィルム(Podophyllum)
という植物は
たしかに北米で
「mandrake」と呼ばれてはいるものの
ナス科マンドラゴラ属に属する、いわゆる「不思議植物のマンドレイク」とは
全然別モノであることが
現在ではわかっております。(^^;)
──── さて
ナス科の方の
不思議植物として知られている
マンドラゴーラ(マンドレイク)は
こちらになります。↓
この植物の根っこは
形が人間に良く似ていると言われています。
(とはいえ、実は個体によるんですけどね……)
そして
この植物の実には
催眠作用があったり
催淫作用があったりして
媚薬として使われる事があったそうです。
そのため
和名としては「恋茄子(こいなすび)」なんて名前が付けられているんですよ。
(なんか可愛いネーミングですね!)
葉っぱや根には鎮痛、麻酔作用があるために
外科手術に使われたりしていました。
さらに
葉っぱを
タバコのようにして吸う
なんてこともあったみたいです。
このように
薬として使われる植物というのは
たいがい危険な毒草であることが多いんですけど
(薬と毒は表裏一体)
マンドラゴーラも御多分に漏れず
やっぱり毒草。
興奮、幻覚、幻聴、頭痛、発熱、痙攣、眩暈、視力障碍などを引き起こしてしまう
アトロピン、ヒヨスチアミン、スコポラミンなどの毒を持っています。
さて
根っこが人間の形をしている所や
不思議な毒性(薬効)を持っていることなどから
昔の人はこの植物に
神秘的なパワーを感じていたようで
中世のヨーロッパでは
これの根っこを人形として彫りつけたものを
子宝や安産
金運アップ
裁判必勝
病気除け
魔除け
などに効果アリ!
──── として
お守りのように使っていました。
ところが
そういう霊験あらたかな所をアテにして使うためのマンドラゴーラの根っこは、普通の物ではダメで
特別なものでないといけない!
って話なんですよ。(; ・`д・´)
でもって
これを手に入れるのが
非っ常〜に難易度高いんです!
どれくらい難しいのかと言いますと
まず
霊験あらたかなるマンドラゴーラっていうのは
絞首台の下に生えていなければならないという……。
しかも
そのマンドラゴーラの株は
無実の罪で絞首刑にされてしまった、気の毒な男性受刑者の精液から生え出たものでなければならない
という
超スペシャル無茶振りの激レア品!
そして
もし、仮に
そんな株が本当に見つかったとしても
そのように魔力を秘めている株の根っこというのは
引っこ抜こうとすると
パッ!と消えてしまうんだそうです。
ところが
幸いなことに
消えない場合もあるって話なんですが
その時には
とてつもなく恐ろしい叫び声をあげるので
抜こうとしている人は
驚きの余り
ショック死してしまうんだそうですよ~!!
そんな苦難を
どうにかこうにか乗り越えた末
この貴重な根っこを手に入れることが出来た場合には
これを人形の形に彫って、色んな洋服を着せてやり
立派に盛装させて箱におさめ
家の中でも、決して誰にも見つからないような場所に置き
朝、昼、晩ごとに食べ物や飲み物をあげ
土曜日ごとに
葡萄酒と水で入浴させてやり
新月がめぐってくるたびごとに
新しい洋服に着替えさせてあげる必要があります。
面倒くさっっ!!
そうした上で
いざ
何かのお願い事があるとなった日には
いよいよ
隠しておいた所から持ち出してきて
根っこ人形にお願いをしたんだそうです。
中世のヨーロッパでは、その霊力を頼みとするために
マンドラゴーラの根っこがさかんに売買され
ドイツでは1つ
60ターラー(日本の通貨に換算すると約15000円)もの値段が付けられていたそうですよ。
────ん?
こんなに檄レアな根っこが1万5千円って
むしろ
安すぎないかい??
と、思うかもしれませんが
この訳注が書かれたのは
先ほども申しましたように
昭和34年(1959年)です。
当時の大卒初任給は1万円くらいだったそうですから
今(令和4年)の貨幣価値に換算してみると
15~20倍くらいでしょうか
で
これを15倍してみると
霊力を持ったマンドラゴーラの根っこのお値段は
ざっと
22万5千円!
これを高いと思うか
安いと思うか……
私なんかは
たぶん、ほとんどがインチキだったんじゃないの……?
なんて思ってしまいますけどねぇ……(-_-;)
このマンドラゴーラ
現在では日本でも
園芸屋さんのサイトなどで種を入手することが出来るようです。
春咲きのマンドラゴーラは男の子で
オフィキナルム(officinarum)
秋咲きのものは女の子で
アウツムナリス(autumnalis)
と名付けられています。
とはいうものの
この植物
花が咲く事自体が非常に珍しくて
3~4年に1度咲けば良いぐらいなものらしいですよ。
そんなマンドラゴーラの花言葉は
「恐怖」「幻惑」
だそうです。
う~ん
いかにも!
っ感じですね……。(^^;)
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