月にはウサギが住んでいると
言われていますが
太陽にはカラスが住んでいる
って
ご存じでしたか?
鳥と太陽とが結び付けられた説話は世界各地にあるようですが
太陽にカラスがいるという話は
古代の中国が発祥です。
どうしてカラスが太陽と結びついたのか、その理由としては
カラスが日の出や日の入りの時間帯に移動するから
とも
太陽の黒点を象徴しているから
とも
言われています。
光り輝く太陽にいるカラスは
金烏(きんう)
と呼ばれたり
陽烏(ようう)、黒烏(こくう)、赤烏(せきう)
と呼ばれることもあれば
太陽そのものの異名として
カラスの名が使われたりすることもあります。
太陽とカラスにまつわる中国の伝説は
次のような話になっております。
ーーーーーーー
東方の天帝である帝夋(ていしゅん)は
太陽の女神・義和(ぎわ)との間に
10人の息子達(太陽にしてカラス)がいました。
息子達は1日交替で
1人ずつ順番に地上を照らすことになっていました。
ところが
どういうわけか
地上を名帝・堯(ぎょう)が治める時代
10の太陽がいっぺんに地上を照らし出してしまったのです。
地上は灼熱地獄になってしまいました。
さすがの名君、堯も困り果ててしまいました。
そこで天帝夋は、解決のため
弓の名人である神、后羿(こうげい)を地上へと遣わしました。
后羿は最初、太陽達を脅して元通りにさせようと思ったのですが
うまくいかなかったので
1つだけを残して
残り9つの太陽を
全部射落としてしまいました。
こうして地上には
元通りの平和が戻りました。
このお話は「大羿射日」という題で語られています。
さらに后羿は、その他にも
あちこちで人々を困らせていた悪獣たちをやっつけてくれたので
一躍ヒーローとして讃えられることとなりました。
しかし
自分の息子たちを殺された天帝は
なんとなく
后羿を疎ましく思い始めるようになりました。
そのため
后羿とその妻・仙女の嫦娥(じょうが)は
神籍から外されることとなってしまいました。
(こうして二人は、不老不死の身ではなくなりました)
ーーーーーーーー
う~ん……
天帝、自分の子供の不始末の解決に、自分で派遣しておきながら、なんと理不尽な……。
后羿さんと奥さんの嫦娥さんは
大変にお気の毒としか言いようがありません。(-_-;)
太陽の象徴として語られるカラスは
三本脚で描かれる事も多く
「三足烏」(さんそくう)
という名で呼ばれています。
これは
数字の奇数は陽
偶数は陰
を表わしていることから
太陽の鳥・カラスに
「三」という「陽の数」があてられたのではないか
と言われています。
日本においても
神武天皇が九州から近畿へと東征して行く際に
タカミムスビノカミ(もしくはアマテラスオオミカミ)によって遣わされ
熊野から大和への道案内をした
八咫烏(やたがらす)
という名の
三本脚のカラスがいます。
八咫烏は
導きの神、太陽の化身として信仰され
熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)においては
熊野大神(スサノオノミコト)に仕える存在として信仰されています。
月のウサギ
太陽のカラス
ということで
「太陽と月」とか「年月」などを表わす時に
「烏兎(うと)」
という言葉が使われたりする事もあります。
一方
月のウサギは
月兎(げつと)
玉兎(ぎょくと)
などと呼ばれる事もあるのですが
そのルーツには、次のような
インドに伝わる仏教説話があるようです。
(細かい部分には色々な違いがあるのですが、大筋はこんなような話です)
ーーーーーーーー
ある時、飢えたお坊さんが、猿、カワウソ、ジャッカル、ウサギといった動物たちに食べ物を乞いました。
猿とカワウソとジャッカルは、それぞれに食べ物を調達して差し出すことが出来たのですが
ウサギは人間の食べ物を調達できなかったので
火に飛び込み
自らの体を差しだしました。
お坊さん(実は帝釈天が変身したもの)はウサギの心根に感動し
ウサギに永遠の命を与え、月に送り込みました。
ーーーーーーー
月にのぼったウサギは
日本ではお餅をついていると言われていますが
中国では
嫦娥(先述の太陽を射落とした弓の名人・后羿の妻)のお手伝いをしながら
不老不死の薬を作るため、手杵で粉をついていると言われています。
ウサギの他に
古代の中国では
月にはヒキガエル(蟾蜍せんじょ)が住んでいるとも言われていました。
(「月中蟾蜍」と呼ばれています)
このヒキガエル
一体、何者か言いますと
一説によると…………
えっ!!!!
(◎_◎;)
ここから、先ほどの
后羿が太陽たちを射落として天帝から疎まれたお話の続きになるのですが ──
后羿と妻の嫦娥は、神籍を外され人間として地上に降ろされたために、不老不死の身ではなくなってしまいました。
そこで后羿は西方の崑崙山に行き、西王母(最上位の女神様)から不老不死の薬を賜ってきました。
ところが
嫦娥はそれを
盗んで
一人で全部飲んでしまい
月に逃げ込んだのです。
その罰として
彼女はヒキガエルにされてしまったんだそうです。
(西王母に怒られるのが怖いので自らヒキガエルに化けた説もあり)
そんな〜……(T_T)
しかし
この話には沢山のバリエーションがあり
他の話では
夫后羿の留守中に、腹黒男の逢蒙(ほうもう)が不老不死の薬を奪おうと嫦娥を脅しつけ
悪者に薬を奪われる事をなんとか阻止しようとした嫦娥は、やむなく薬を飲み干し
ふわ~っと空へと上って行きました。
でも彼女は
「愛する夫の姿が見られる所にいたい」
そんな切ない想いから
地球からそう遠くない場所にある月にとどまる事にしたのです……
……という
大変にロマンチックなバージョンもあります。
(そちらではヒキガエルにはなっていません)
嫦娥が不老不死の薬を飲んで月に行く
というこのお話は
「嫦娥奔月」(じょうがほんげつ)
というタイトルの故事として知られているのですが
伝わっているストーリーは実に様々で
后羿や嫦娥、それぞれの性格や夫婦仲も
良好だったり殺伐としていたりと
お話ごとにガラッと趣を異にしております……。
(嫦娥さんが盗んで飲んで逃げて化けた話は「淮南子」の中にあるそうです)
ともあれ…………
それが嫦娥さんなのか
全く関係ないものなのかは
ひとまず置いておくとして
月にはヒキガエル(蟾蜍)も住んでいて
昔から「月の精」と言われていたそうですよ。
夫婦仲良好の
ロマンチックバージョンの続きとしては
旧暦8月15日の満月の晩に
后羿が月に彼女の好物をささげて嫦娥の名を呼ぶと
彼女が舞い戻って来て逢えるようになった
とか
后羿は毎年8月15日に彼女を想った♥
などという話が付けくわえられ
中秋節にまつわる
素敵なお話となっています。
(ちょっと七夕のお話に似てますよね)
妻が月に行ってしまった
その後の后羿はと言いますと ──
家来で弟子の腹黒男・逢蒙(ほうもう)に弓の技を伝授した所
その腕前をめきめき上達させた逢蒙は
「后羿さえいなくなれば、俺がナンバーワン……」
などという野心を抱きます。
危うく射殺されそうになった后羿。
その時には回避できたのですが
後日
彼は逢蒙により
桃の木の棒で撲殺されてしまったのでした。
(ノД`)・゜・。
このエピソードには
「逢蒙殺羿」(ほうもうさつげい)
というタイトルがつけられています。
実は
この裏には
后羿に射落とされた9つの太陽たち(烏)が、再びこの世に転生し
9人の仙女になって逢蒙の元に現れ
彼を唆して
后羿を殺させた
なんて話もあるそうです。
可哀想なヒーロー
后羿……。
死後
人々は生前の彼の功績をたたえ
宗布神(そうふしん)として祀りました。
后羿は鬼(死霊)の首領となって
鬼たちが人々に悪さをしないように
統率するようになった ──
ということですよ。
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