TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

トルストイ「人生論」を読んで思った事~理念は立派だけど一般人にはハードル高過ぎる。

今回はロシアの文豪

レフ・トルストイ(1828-1910)の著書

「人生論」(1889年刊)のご紹介をいたします。

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ロシアの文豪トルストイと聞くと

条件反射的に

「取っ付きにくそう!!」

なんて思われてしまう向きもあるかもしれませんが

 

親しみやすく、面白い作品もいっぱいあるんですよ。

 

特に私が好きなのは

地の塩書房というところから出ている

北御門二郎さん訳の作品群。

 

どこかしら、ホンワカとあたたかみの感じられる文体で

「難しそう……」

と何となく敬遠している方にもおすすめですよ。

 

イワンの馬鹿 (心訳シリーズ)

イワンの馬鹿 (心訳シリーズ)

 

「イワンの馬鹿」

「イワン・イリイッチの死」

「光あるうちに光の中を歩め」

などなど

 

これらの作品からはトルストイ

誠実で人類愛溢れる人柄

がにじみ出ています。

 

そんな所に心が打たれ

非常に共感する部分があったので

 

私は次に

この本を手に取って、読んでみたのです。

 

人生論(新潮文庫)

人生論(新潮文庫)

 

 

 ところが、しかし……

 

本書を読み進めていくにつれ

私は正直なところ

かなりの戸惑いを感じてしまいました。

 

トルストイって意外と

頭の固い頑固ジジイだったの……?

 

 

この本の中でトルストイ

人間が

「動物的に感じる幸せ」

下等なものである

として否定しています。

 

「人間の真実の幸福」

とは

理性にのっとり奉仕の精神で、をもって他人に尽くす事」なのだ!

 

彼は繰り返し繰り返し

そう主張しているのです。

 

たしかにそういう考えも

自分一人がそう心がけて実践する分には立派

だとは思いますが

 

他の人にまで

「そうしなさい」

勧めるのは

どうなんでしょう?

 

─── 正直言って

私はそんなふうに思ってしまいました。

 

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人間は動物的な幸せなど

求めるべきではない。

 

トルストイはそう言いますけど

 

美しいものを見て美しいと感じ

美味しいものを食べて美味しいと感じることの出来る状態って

自然であり健康的。

 

私はそう思うんですよね。

 



 酷いストレスに心がやられちゃってる時って

「美」とか「楽しさ」を感じるだけの

心の余裕が無かったりしませんか?

 

私自身の事を言わせていただければ

 

子供が赤ちゃんだった頃

私は育児がしんど過ぎて

花を見ても「きれいだ」と思えるだけの

心のゆとりがありませんでした。

 

ちょっと産後鬱だったのかも。

あの頃は辛かったなあ……。(T_T)

 

ですから

 

「動物的な幸せ」なんて言われようとも

身の回りのあれやこれやのささやかな事に

幸せを感じられる状態って

 

心が健康なんだと思います。

 

 

ところがトルストイに言わせれば

 

そういった感覚的な満足

衣住食を満たすだけの「動物的な幸福」

 

人間としてあるべき

「高度な幸福」ではない……。

 

そんな彼の考えも

まあ

全然わからないってわけではないですが。

 

でも

 

ささやかな満足が心を満たしてくれる部分って

確かにありますよねぇ。

 

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アイスの棒に「当たり」が出て、幸せ気分の図

 

傍から見てどんなささやかな事であろうと

一人一人が自分なりに幸せを感じられて

 

そんな人でこの世界がいっぱいになれば

世の中だって幸せになるってもんじゃないですか。

 

それだのに

他人がせっかく感じている幸せを

「そんなものは本当の幸せじゃない」

だなんて

 

余計なお世話だよ!

って気がします。

 

 

本書の中でトルストイ

 

科学者達が顕微鏡で細胞を覗き込み

生命を研究していることに関して

 

 「そんな事で生命の本当の意味が分かってたまるか!」

 

なんて難癖をつけているのですが

 

そういった研究があったお蔭で

医学や生物学が発展し

多くの人々が健康で長生きできるようになったんじゃないですか。

 

他人が好きで研究しているものまで

「無駄」だなんて言ってケチつけるのって

 

あまりにも

心が狭すぎるんじゃないの?

と感じてしまいました。

(どうしちゃったの?トルストイ)

 

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本書におけるトルストイ

 

愛が大切と言う割には

他人に対する寛容さ

に、あまりにも欠けているように思います。

 

私が先に読んだ

「イワンの馬鹿」
「イワン・イリイッチの死」
「光あるうちに光の中を歩め」

などの小説には

もっと優しさや温かさが感じられたのに。

 

「愛」には

もっと、こう

 

他人を許容する心

ってものが必要なんじゃないのかな……?

 

 

とはいえ

 

愛の精神で他人に奉仕する事こそ

本当の幸せである

 

という理念そのものは素晴らしいと思うし

 

実際にそれを実践していたトルストイ

偉大な人には違いありません。

 

 

名門貴族の家に生まれ

広大な領地や財産に恵まれていたトルストイ

その上、文豪としての名声も高まって

たくさんの収入がありました。

 

貧しい人々のために様々な慈善事業を行っていた彼ですが

 

さらに

「一般民衆が貧苦にあえいでいるのに、自分が富裕であるのは心苦しい」

土地からの収入や印税の受け取りを拒否しようとしたり

「自分の遺産はロシア国民に捧げる!」

という遺言書を作ったりしようとして

 

その結果

 

12人もの子供を守り育ててきた

妻ソフィアとの仲を

酷く悪化させてしまいました。

 

トルストイの最期は

82歳にして

夫婦喧嘩の果て

家出をしての客死

です……。

 

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夫が国民的な大文豪であり

さらに

理想や行いが立派過ぎたため

それについていけない妻のソフィア

ずいぶんと「悪妻」呼ばわりをされたそうですが

 

 奥さんの感覚は、現代から見てみれば

きわめて普通

だと思いますよ。

 

 

他人への奉仕もいいけれど

 

あまりにも自分を犠牲にした上での奉仕って

奉仕される方にしてみたら

 

ちょっと

重た過ぎるものがありませんか?

 

 

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ものすごくお腹すかせた人からアンパンをもらうの図

 

自分や家族の幸せはちゃんと確保した上で

「幸せのおすそ分け」くらいの気軽さでこそ

受ける方も受けやすいと思うんだけどなあ。

 

いやあ

でも…………

 

性格的に

こういう過剰な所があったからこそ

トルストイ大文豪になりえたのかも知れないんですよね。

 

普通で無難な性格していたら

もっと小物で終わっちゃったかも……。

 

それにしても、つくづく思うのは

 

こういう旦那さんを持って

奥さんは本当に大変だったでしょうね……。

 



 

 

 

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