TODAWARABLOG

戸田蕨です。小説書いてます。よろしくお願いします。

普段使いの「美」を再発見!~柳宗悦「民藝とは何か」のご紹介と感想。

大正時代の終わりごろから昭和にかけての美術界で

民芸の素晴らしさというものを

世間に知らしめる

民藝運動

という一大ムーブメントがありました。

 

先日、その提唱者

柳宗悦(1889-1961)による

「民藝とは何か」

という本を読みましたので

今回は民藝運動のご紹介を兼ねながら

本に書かれていた事の感想などを述べてみようと思います。

 

 

柳宗悦ってどんな人?

 

柳宗悦…やなぎむねよし…(1889-1961)

 

父・楢悦(ならよし)

安濃津藩の士族の出で元海軍少将の貴族院議員 

母・勝子

「柔道の父」として有名な、かの嘉納治五郎の姉

宗悦は、そんな上流家庭の三男坊です。

出身地は東京・港区の麻布。

 

学習院高等科に在学中

志賀直哉武者小路実篤らと共に

文芸・美術雑誌「白樺」を創刊しています。

 

東京帝国大学哲学科卒の宗教哲学者であり

民藝運動創始者として知られています。

 

東京の目黒(駒場)にある美術館

日本民藝館初代館長です。

 


民藝運動ってどんな運動?

 

平たく言いますと

 

芸術家先生名匠が作り

お金持ちがこぞって買いたがるような

「スゴイ作品」

といわれているものよりも

 

一般民衆が普段使いしているような

名も無き職人たちが作っている物の中にこそ

本物健康的がある!

 

庶民が日常使いしている手仕事工芸品

素晴らしさ、美しさ

みんなに広く認めさせようじゃないか!

というムーブメントです。

 

 

つまり

このようなものより

 

 

このようなもの方が

 

 

より美しい

────とする考え方です。

 

なぜかというと

 

大先生が作り

金持ち連中が愛好するような

スゴイ作品というのは

往々にして

超絶技巧で凝って凝って凝りまくるがために

実用性が二の次三の次となり

結果

肝心な道具としての使い勝手

「どうなのよ?」

というものになってしまう不健全さがあったり

 

作り手側の

「凄いもの作ってやるぞぉ〜」

などという野心や自意識が

な~んとなく匂ってきてしまったりするからです。

 

 

──── というのは

本書を読んだ私なりの

非常に大雑把な解釈なのですが (^^;)

 

柳宗悦自身は

本書「民藝とは何か」の中で

次のように書いています。

 

いわゆる上等品に見られる通有(つうゆう)の欠陥は技巧への腐心なのです。

したがって形も模様も錯雑(さくざつ)さを増してきます。

そこには丹念とか精密とかはありましょうが、それは直ちに美のことではないのです。

よし美があっても華美に陥る傾きが見えています。

したがって大概は繊弱に流れて生命の勢いが欠けてきます。

大部分が用途には堪えませぬ。

しかし用を離れて工藝の意義がありましょうか。

用い得ないことにおいて、美もまた死んでくるのです。

 

 

なぜ特別な品物よりかえって普通の品物にかくも豊かな美が現れてくるか。

それは一つに作る折の心の状態の差異によると云わねばなりません。

前者の有想よりも後者の無想が、より清い境地にあるからです。

意識よりも無心が、さらに深いものを含むからです。

主我の念よりも忘我の方が、より深い基礎となるからです。

在銘よりも無銘の方が、より安らかな境地にあるからです。

作為よりも必然が、一層厚く美を保証するからです。

  (中略)

人知に守られる富貴な品より、自然に守られる民藝品の方に、より確かさがあることに何の不思議もないわけです。

 

 

一点ものの芸術作品ではなく

大量生産の工芸品であるため

作り手の余分な精神が入っていない。

だからこそピュア

 

 

ここの所は個人的に

頷けるようでいて、正直

「うーん、そうかな…?」

と考えてしまう所でもありました。

 

本書の中で柳宗悦

高価で貴族的な物には「工夫作為の弊」がある

 

しかし

民藝品は多く作り安く売るために

「技巧の罪を忘れしめ」「意識の弊を招かない」

と語っているのですが

 

その一方で

商業主義から発する機械による大量生産に対しては

かなり批判的な目を向けているんですよね。

 

彼はこんな風に言っています。

 

商業主義は競争の結果、誤った機械主義と結合します。

ここに創造の自由は失われ、すべてが機械的同質に落ちてゆきます。

作られるものはただ規則的な冷ややかなものに過ぎないのです。

 

 

このあたり

 

モノ作りの際に

作り手の意識が反映されるのが良くない

────とするのであれば

 

完全に心という要素が排除された機械生産

「冷ややか」

と切って捨てられてしまうのは

なんだか矛盾してまうような気がしませんか?

 

思いますに

 

手仕事で作る日常使いの物にしてみたところで

人が作っている以上

その濃度は時により人により様々だとは思いますが

何かしらかの「気」みたいなものは

纏われて当然のものなのではないでしょうか?

 

そして

まさにそれこそが

手作り品の良い所なのでは?

 

しかるに

そこへもってして

 

高級品には良からぬ自意識が入っている

廉価な日常品は無心で純粋な状態でつくられている

なんて考えるのは

 

彼の想像に過ぎないのではないか?

なんて思っちゃうんですよね……。

 

(作り手の心の内なんて、本人にしかわかりませんもの)

 

 

そもそも

普通の職人が経験を積み

熟練して名人になって行くわけですから

実際の所

廉価品高級品境界あたりの所なんか特に

区分けがそうキッチリされているわけでは無く

かなり曖昧なんじゃないでしょうか……?

 

事実

民藝運動に携わった人々の中には

河井寛次郎濱田庄司など

巨匠と呼ばれるようになった人も少なくありませんし。

とはいえ

 

それは民藝というものの価値

すでに充分に理解されている現代だからこそ言える事なのかもしれません。

 

なにせ

大正~昭和初期の当時には

良い物・美しい物=希少な高級品

という価値観しか

ほぼ無かったわけですから

 

大衆の普段使いの物の美を認め、それを評価した点は

やはり革命的だったろうと思います。

 

 

民藝という言葉は

「民衆的工藝」の略で

柳宗悦らによる造語です。

 

当初、彼らはこのような普段使いの器物たちを

「下手物」と呼んでいたのですが

これではちょっと誤解を招きそう…ということから

「民藝」という言葉を生み出したんだそうです。

 

たしかに

「ゲテモノ」という言い方ではちょっと

ヒドイ誤解を招きそうですね……。(^^;)

「下手物」とは本来、精巧な高級品に対して素朴で大衆的なものを指した言葉なのですが、やがて「奇抜な物」とか「普通は食べないような珍妙な食材」などの意味を持つようにもなりました。これの対義語は「上手物」(じょうてもの)で、素敵な高級品を指しています。

 

民藝運動

1880年にイギリスの

ウィリアム・モリス(1834-1896)が提唱した

アーツ&クラフツ運動(中世の手仕事に回帰し、生活と芸術を一致させようと主張)に似ている

と言われる事も多いのですが

 

柳自身は、アーツ&クラフツ運動の模倣のように言われる事には、強く反発していたそうです。

 

 

「民藝」という言葉は当初

民藝運動に携わる人々の間でだけ使われていたのですが

 

1950年代の後半から1970年代にかけて

農村やふるさとに対してのノスタルジーと共に

民藝ブームという社会現象が起こると

 

柳宗悦らが指していた

当初の「民藝」

というものからは、やや離れてしまい

 

今では

その土地ならではの郷土手工芸品をあらわす

「民芸品」

というような言葉として広まっています。

 

 

「民藝とは何か」

 

原本は1941(昭和16)年刊行。

 

柳宗悦による

民藝論への入門

工藝美論全般の概説

となる本です。

 

平易で分かりやすく、読みやすく、大変に面白かったです。

 

後半部分には

「これ、素敵でしょ!」

柳宗悦自身が一押しする民藝品の写真と解説が収録されているのも興味深いところ。

 

 

芸術の秋。

日本民藝館に行って、素敵な民藝品をじかに見てみたいなあ……」

という気分を誘われてしまいました。(^_^)

 

 

日本民藝館

 

ホームページ 日本民藝館 (mingeikan.or.jp)

場所 東京都目黒区駒場4丁目3番33号

アクセス

京王井の頭線駒場東大前駅」西口から徒歩7分

小田急線「東北沢駅」東口から徒歩15分

月曜休館

 

 

 

 

 

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